これほどまでとは… | AREA73 MY NEXT THIRTY YEARS

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1973年出現、船長、だけど今は陸での仕事。
海に戻りたい坊主おやじの出来事、気になる事。

さて、ニュージーランドはオークランドを出港して次の港に向かっています。

イヤ、困りました。
全くボクの読みが外れて…。

先日も触れましたが、今南半球は冬の海。
ニュージーランドの周りには次から次へと低気圧が押し寄せ、かなり海が荒れています。

All I Do 涙をふいて
All I Do 僕を信じて

気象予報を日々何度も確認しながら、少しでも安全に航海できるように低気圧の動き、沿岸の波やうねりの状況を見ているのですが。

これほどまでにスピードが出ないとは思っていませんでした。

風は常に向い風、ある程度船が波に叩かれるのも覚悟していましたが、まさかまさか、こんなにスピードが出ないなんて。

エンジンの回転数から計算して、大体のスピードを予測して航海にのぞみます。
今回オークランドを出港して通常16(30km/h)ノットくらいのスピードが出る回転数にセットして走り出しました。
でも、海上は大荒れなのは分かっているので、11ノット(20km/h)くらいに落ちこむだろうと。
走り出しはヨカッたんですよ。
快調に16ノット近くでていて、少し余裕を持てるかなって。

それがそれが、岬をかわった後からうねりが大きくなり、風は真向かいから吹き付け、11ノット以下に落込みました。

まぁ、それでも10ノットはキープできているので、イイかなぁ〜と。
うねりとほぼ直角に進み、うねりの波長と船のスピード、長さにより時々船が海面に叩かれていましたが、なんとか。

あの頃のふたりは
いつだって傷ついてた
名前を呼ぶ声だけで
やさしさまで つたわるのに
だから

そんな感じで航海を進めていると機関長から連絡あり。
「回転数を下げないとエンジンがもたない」と。

ホントはもっと回転数を上げたいトコなのですが、さすがにフルまでは回せないだろうと思い、60%くらいの回転数ではしりだしたんですよね、この通常16ノットくらい出る回転数で。

でも、実際岬をかわってからのエンジンの実回転数は規定値の回転数よりかなり下まわっていて、エンジンに大きな負荷がかかっているコトを示していたんですよ。

All I Do あきらめないで
All I Do 僕を信じて

なんとなく、そんな気はしていたものの、岬をかわってスピードが10ノットくらいに落込んだ頃に直ぐに機関長からの連絡はなかったので、大丈夫なんだ…と。

機関長も次の港へ急いでいるのは知っているので、2時間程は様子を確認しながら、頑張ってくれていたんですよね。

でも、海上の状況は改善されるどころかさらに悪化するばかり。

機関長もコレはダメだ‼︎って判断をしてくれたんですよね。

回転数を落としスピードが下がるのは仕方がないんですよ、エンジンを壊すワケにはいかないですから。

その判断を出来るのは機関長。
なのでボクは機関長に従い、スピードが落ちればそのスピードで航海をし、針路を定め、危険な状況に陥らないようにするのがボクの役目ですからね。
消えかけた 夕暮れ
遠ざかる あの想い出
はじめてのくちづけ
忘れるのはさみしいから
だから

回転は機関長にお任せして…。





⁉︎


機関長がセットした回転数は通常であれば13ノット程でるもの。
だから、この状況だと7ノットくらいに落込むだろうと思いきや……3ノット⁉︎

いや、コレは参りました。

かなり海が荒れている中、3ノット‼︎
保針が出来ないんですよ。
つまり、舵を取りながらある方位に向けて進むのですが、スピードが遅すぎて、風やうねり、波による外力に負けてしまうんですよ。

真っ直ぐ進めば舵を大きく取るコトもないのですが、風やうねりなどに押されて針路が定まらない為、針路に向ける為に舵を大きく取る…そうすると舵を動かすコトにより更に抵抗となりスピードが落ちる…悪循環なんですよ。

こうなると、向かうべき方向に無理に舵を取ったところで進めなくなるだけなので、少しでも船が叩かれず、スピードが出る方向に針路を変えて。
このうねりを見ながら針路を取る…コレが意外とタイヘン。
うねりも1方向だけではなく、2方向、3方向から。
沿岸を走っている為、風により卓越した波がうねりに変わり、押し寄せてくるのですが、それは陸にもあたり、その跳ね返りのうねりが押し寄せてくる…沿岸の地形も様々なので、跳ね返りも1方向ではなく。

その強弱を見極めながら舵とる。
でも、1時間と保たないんですよね、その針路が。

3、40分もすれば、また激しく船が叩かれるようになるですよ、うねりの強弱や方向、風の強さが変わり。

なので一晩船橋に立ち、指示をして。

もちろん当直航海士はいるんですよ。
でも、こういう状況はやはり船長が指揮を取らないといけないので。


流石に疲れましたね。
朝を向かえても状況が凄く良くなっているワケでもなく、結局24時間、ほぼ船橋に。
途中、仮眠を船橋の後ろ側にあるソファで横になったりしていましたが、眠れるワケでもなく。

写真は朝方の海の状況。
あまり荒れていないように見えますが…。

All I Do あの日のように
All I Do ほゝえみかけて
All I Do 想い出して
All I Do うつむかないで
All I Do 涙をふいて
All I Do 僕を信じて
〜ALL I DO / 玉置浩二〜

かなりの激しさ、衝撃をくらい、途中あまりの音の大きさに錨が外れ海に落ちたんじゃないか…と心配したくらいです。

夕方少し海が静かになってから、錨があるかどうか確認に行きました。
無事、錨はありました。

虹の写真なんて撮りながら、呑気そうですが、久々のかなりのシケに肝を冷やしましたね。

でも、こんなにスピードが出せないなんて…勉強になりました。

今はかなり穏やかな海になりました。

追)
「ALL I DO」玉置浩二の初ソロアルバム、初ソロシングル、87年です。
ここには歌詞しか載せられないのが残念。(いや、YouTubeを貼り付ければイイのかも知れませんが、ちょっと違うような気がして…)

玉置浩二の歌声は勿論なんですが、やはり凄いのは玉置浩二のメロディ。
特にサビの♪All I Do〜のフレーズ。
こんな簡単なメロディでいいのだろうか?と思うような、同じ音の3連続。
でもこの連続同音手法、ブラックミュージックでは既に行われていたメロディ、アレンジで、この「ALL I DO」でも、ベース音をだけを下げるアレンジされています。

この同音3連の♪All I Do〜のフレーズに玉置浩二が息を吹き込み、様々な♪All I Do〜を聴かせてくれます。
迫力があり、優しくもあり、切なくもあり。

LAとLondonで作成されたこのアルバム、シングル。
安全地帯として絶頂の中での活動休止直前のこのソロ活動。
安全地帯では遣れない(当時)音楽表現をソロのアルバムに詰め込んだようにも感じます。
しかしながら、87年にこのようなブラックコンテンポラリーなメロディ手法を取り入れて、ましてやソロシングル第一弾にもってくるなんて、さすがは玉置浩二。