社長のHappy bag♡ | 夢の終わりに・・・

夢の終わりに・・・

哀しいほどの切なさとときめきを


「デートに遅れるって言うから何事かと心配したけど、原因はそれかい?」

一年前のお正月デートに1時間遅刻してきたマヤが抱えていたのは某デパートでマヤが購入した福袋だった。

「だって速水さん、福袋は色々と入っていて、凄くお得なんですよ〜」

と、嬉しそうに話していた。

自分には無縁の代物だったが、あまりにもマヤが幸せそうだったのを思い出した真澄は、もう一度あの笑顔を見たいと思った。


そして訪れた気忙しい年の暮れ。

マヤも真澄も多忙すぎて、クリスマスも儘ならず、結局二人が会えたのは大晦日の夕方だった。

元日は速水邸でゆっくり過ごし、2日に初詣に出かけた。

神田明神と浅草観音をお参りして、浅草で昼を済ませて、その帰り道。

「今年はもう福袋は買わなくていいのか?」

帰り道に真澄がマヤに確認した。

「うーん、福袋欲しいですけど、並んで買うのはもう無理かも。」

今年は朝の連続ドラマに出て、すっかり全国区の顔になってしまったマヤ。

流石に福袋のためにデパートに並ぶのは憚られるというところだろう。

事務所からもどうやら自粛令が出ていた。

「そうか、、、じゃあ、家に戻るぞ。」

「はい、帰りましょ。」


邸に到着すると、朝倉が穏やかな笑顔で二人を出迎えた。

「マヤ様、リビングにマヤ様宛のお荷物が届いておりますよ。」

マヤは心当たりのない荷物に、きょとんと呆けた顔をする。

「お、届いたか。」

マヤではなく真澄が反応を示して、ますますマヤは訳がわからないと、真澄を見た。

真澄はマヤの手をひき、玄関ホールからリビングに向かう。

リビング中央の大きなガラステーブルの上に、特大の真っ白な艶やかな紙袋がドーンと置かれていた。

紙袋の口は金色のシールで封じられ、持ち手のところには金色のリボンと正月らしい梅の花の飾りでデコレーションされていた。

「何ですか、これ?」

テーブルに駆け寄り、背後の真澄を振り返る。

「何って、見ればわかるだろ。」

真澄が悪戯っぽい笑顔を向ける。

そしてちょっとドヤ顔で種明かしする。

「福袋、、、北島マヤ様専用だぞ。」

「うそ、、、ほんと?」

「もう君は大都芸能の看板だからな、、、福袋ももう買えないだろ、、、だから俺から君に、お年玉代わりだ。」

「開けていいですか?」

「どうぞ。」

マヤはワクワクしながらリボンを解き、シールを剥がして袋を開いた。

そこには色とりどりにラッピングされたアイテムが幾つも入っていた。

「あ、エルメのマカロン♡」

マヤが嬉しそうに箱を取り出して眺めた。

そして次に出てきたのは、、、

「ラ・メゾンのチョコレートもあるぅ♡♡」

マヤの歓声に真澄はしたり顔で、様子を見ている。

「まだまだあるぞ。」

その言葉の通りに、スカーフや靴、イヤリングといった小物が次から次へと出てきた。

マヤは目を丸くして、ひとつひとつの品物を開けては喜んだ。

そして福袋の中身もいよいよ最後となった。

最後の箱は他のものと違って、ブランド名やロゴが一切印字されていない真っ白な正方形のボックスに同じく真っ白なサテンのリボンで結ばれていた。

食べ物なのか、それとも小物なのか、全く想像がつかない。

ただ、持ってみると物凄く軽い。

まるで空箱の様だ。

「開けてごらん」

真澄がマヤを促す。

その顔には少し緊張が滲んでいた。

それにつられてマヤも神妙な顔つきになってリボンの両端を引っ張り、解けたそばから箱の蓋を開けた。

今までは蓋を開けると、溢れるほどのお菓子や鮮やかなアイテムが詰まっていたが、その箱には何も入ってなかった。

いや、正確には入っている、たった一枚のメッセージカードだけが。

真っ白な封筒からカードを取りだす。

そこに書かれていたメッセージを目にした途端、マヤの動きが止まった。


『結婚しよう』


たったひと言だけのメッセージだが、何よりも嬉しくて尊い贈り物だと思った。

真澄がプライベートで使っている万年筆の紫がかった青いインクで書かれたプロポーズの言葉。

マヤはカードの両端を両手で持ったまま、真澄を見上げる。

その目は感涙に揺れていた。

すると、真澄がマヤの隣りに膝をついて、カードを持ったままの左手をそっと掬い上げた。

そしてその薬指に嵌めたパープルダイヤの指環。

「君の喜ぶ顔を・・・いや、それ以外の顔も全部、誰よりも近くで見守る権利を俺にくれないか?」

マヤは言葉にならなくて、こくん・・・とただ頷いた。


これから毎年、俺が君に福袋をあげるよ。

いっぱいいっぱい、幸せを詰め込んで・・・

そう言って、真澄はマヤのおでこにそっとキスを落とした・・・


〜Fin〜