スーパーカブの話をすると、「構造が単純だから壊れないのでしょう」と言われることがあります。確かに部品点数が少ないことは信頼性の向上につながります。しかし、それだけではありません。

 

私はむしろ、「シンプルにすること自体が難しい」と考えています。

例えば、部品を一つ減らせばコストは下がります。しかし同時に強度や耐久性が不足するかもしれません。軽量化を進めれば燃費は良くなりますが、寿命が短くなる可能性もあります。

 

技術者の仕事は、そうした相反する条件の中で最適な答えを探し続けることです。

本当に優れた設計とは、必要な機能を確実に維持しながら、無駄を徹底的に削ぎ落とした状態です。言い換えれば、「これ以上減らせない」というところまで磨き上げられた設計です。

 

だから私は、シンプルな製品ほど設計者の実力が表れると思っています。複雑な仕組みで性能を実現することはできます。しかし、少ない部品で同じ結果を出すには深い知識と経験が必要です。

 

水素エンジンの開発に携わる今でも、この考え方は変わりません。新しい技術に挑戦するときほど、「本当に必要なものは何か」を問い続けることが大切です。

シンプルさは手抜きではありません。長い試行錯誤の末にたどり着く、一つの完成形なのです。