取材記者、編集者として、これまで多くの商人の皆さんを取材させていただきました。東証一部上場企業で経営者は世界有数の資産家から、一坪の小さなお店を皆で営む家族まで、企業規模という点ではさまざまですが、そこに大小による優劣などあるはずもありません。



その数はざっと4000以上でしょうか。クリティカルマス(臨界質量)という言葉は広告やマーケティングで使われ、商品・サービスが売れはじめるまでの必要最低投入量を意味しますが、ものごとの真理を身につけるうえでも同じです。「数稽古」と言ってもいいでしょう。


それだけのチャンスをつくってくれたのが商業界でした。だから、私は失ったものよりも、はるかに大きな授かりものを受けてきました。ありがとうございました。


私にとって取材はまさに数稽古でした。一つひとつに思い出があり、ある一定量を超えたとき、そこに共通する商いの真実が見えてきました。次に記す短文は、そのエッセンス。多くの商人から学んだ知恵の一部です。

 


お客への愛情と親切で

いっぱいにするには

狭い小さい店ほど

手ごろなものはない

 

苦情を言うお客こそ

店のいちばん熱心な

ひいき客になる

可能性を持っている

 

何を目的として

商売をしているか

わからないのは

羅針盤なき航海と同じだ

 

人の心の

美しさを

信じるところに

商売の根本はある

 

商売のうち

いちばん難しいのは

店の中のどこにも

嘘がないようにすること

 

人生の生き方も

商売のあり方も

突き詰めると

愛にたどりつく

 

商人の道は天の道

天の道は人間の道

商人である以前に

良き人間であろう

 

お客への愛情ほど

百の広告にも

千の商略にも

優るものはない

 

商売に生きることが

人としての確かな道と

同じだと悟った時こそ

成功する商人となれる

 

商売は損得勘定より

善悪峻別のほうが大切だ

採算よりも善悪を

考えるのが根本である

 

売れる数や量よりも

その売り買いの内容や

お客との心の交流こそ

小売業の本質である

 

正しいと信じた道を

一途に貫き通せ

人気取りの商策など

取るに足らないことだ

 

お客の幸福を守ることが

商人の務めであると

あなたは誇りを

持つことができるか

 

何のための商売かを

はっきりと自覚できたら

どんな小さな店でも

本当の店になれる



いかがでしょうか。一つでも、欲を言えば二つくらい、あなたの商いに役立つ言葉があれば光栄です。


あなたにとっての数稽古は、一人ひとりのお客さまとの商いの中にあります。そして、それは一期一会。一つひとつの出会いを大切にした先に商いの真実はあります。