100年後も強い企業ーー

限りある命を持つ人間は、だからこそ永遠の存在であろうと時間に抗います。子孫を残すことはもちろん、後世の人たちの記憶に残るような仕事に励むのも、そうした反抗の表れです。


冒頭に掲げたのは「日経ビジネス」2019年12月9日号(通巻2020号)の特集タイトル。これに触れたとき私が感じたのは、時間という魔王に打ち勝とうとする人間の性の強さでした。法人という人もやはり永続的な命を渇望しているのです。

この号には、二人の小売業者が登場します。一人は2017年に105年の歴史に幕を閉じた山梨・韮崎のスーパーマーケット「やまと」の元社長、小林久さん。もう一人は三重・四日市の老舗「岡田屋」の7代目、岡田卓也さん。岡田屋はジャスコ、そしてイオンと名前を変え、日本を代表する小売企業となったことはご存知のとおりです。


小林久さんが登場するのは特集「100年後も強い企業」の中の「老舗の明暗真っ二つ 揺らぐ長寿の方程式」。店舗への生ごみ処理機の設置、買物難民のための移動販売車の中で導入など、時代の変化に真っ先に対応ししたものの、結局は巨大ショッピングセンター(イオンモールもその一つ)が次々と開店する中、経営は厳しさを増し、力尽きてしまうと記されています。

片や岡田卓也さんが登場するのは「賢人の警鐘」という巻末コラム。若かりし岡田さんが小売業の社会的地位を高めようと、商工会議所の議員に占める小売業者の割合を増やそうとしたときのエピソードが綴られています。その後イオンは8兆5000億円の連結営業収益を誇る日本有数の企業となりましたが、それでも「小売業の社会的な地位が高まったのかと問われると、手ごたえはまだない」と振り返っています。

お二人とも、小売業という商いを通じて目の前のお客様の暮らしを豊かにしようと努力してきた商人です。今日、お二人の境遇は大きく異なりますが、どちらも構成の記憶に残る仕事をしてきた商人であることに間違いはありません。


正しきに
よりて滅びる
店あれば
滅びてもし
断じて滅びず

これは商業界草創期の指導者の一人、新保民八の遺した言葉で、いまも多くの商人の心のよりどころとなっています。私は長らく考えていました。「正しさ」とはなんだろうと。いま私はこう考えています。

時代性(時代の潮流に適うトレンド)
公益性(社会の役に立つビジネスであること)
革新性(業界常識よりも顧客の変化に対応する柔軟性)

これらの三位一体こそ「正しさ」ではないでしょうか。そして、これらこそ企業に継続性を生み出す重要な要素なのです。