八方良し――という思想があることを知りました。

先月訪れた山梨・甲府での取材で、以前に取材を通じて知り合った書店「宮川春光堂本店」の宮川大輔さんを訪ね、そのとき奨められた一冊の本にありました。

宮川さんは読書会をはじめさまざまなイベントと選書を通じて、山梨の人と人をつなぎ、文化を育む書店人です。

 

 

彼が差し出した本には『「八方良し」を目指して』とあります。

四六判の角背・溝付きの上製本、手貼りの外函、本文は活版印刷という丁寧なつくりの一冊です。

書き手は甲府市で日本の良品の販売を通じて、本物・良い物を永く丁寧に使う生活様式を提案する店「日本の匠と美 ほさか」店主の保坂浩輝さん。

保坂さんは店のことは以前から知り、いつかお話を聞いてみたいと思っていた商人でした。

 

さっそく読み始めた本書の中に「八方良し」の思想がありました。

「私は、世界最高のMade in Japanを活かしていけば、『作り手』『使い手』『傅え手・繋ぎ手』『環境』『地域』『日本』『世界』『子ども=未来』、この八方、すべてのためにあると確信しています」(133ページ)

 

 

「売り手よし、買い手よし、世間よし」で知られるのは、ご存知のとおり、近江商人の商売訓「三方よし」ですが、保坂さんはその思想をさらに極めていらっしゃいます。

詳細はぜひ本書を手に取ってみてください。

 

売り手とはそれだけで成立しうる存在ではありません。

作り手がいなければ始まりませんし、買い手がいなければまた存在できません。

誰の、どのような幸せを実現するために、何を作りまたは仕入れ、売るか――売り手にはこうした哲学がそもそも必要なはずです。

 

「売れるから」

「他店で売れ筋だから」

 

こうした考えだけではやっていけない時代の道行きは、もうずいぶんと進んでいます。

だから、買い手はあなたの店を選ぶ理由が見つけられません。

本書は、傅え手・売り手である商人が何のために商うのかを問う一冊です。

 

商業界創立者、倉本長治はかつて商いの本来の役割をこう遺しました。

「商売は今日のものではない。

 永遠もの、未来のものと考えていい。

 人は今日よりもより良き未来に

 生きねばならない」

そう、商いは現在につながる未来を良くするものではないでしょうか。

 

あなたの商いの哲学を教えてください。

そこには、自分の命を全うした後にもつながる未来はあるでしょうか。

保坂さんにじっくりとうかがってみたいテーマです。