この関係が始まって10年以上
私は彼の写真を持っていなかった。



超遠距離時代には
彼はまだガラケーで
ビデオ通話もしてなかったし
写真も無いし



顔を見るのは月に一度会う日だけで



1ヶ月も顔も見れない日が続くと
なんとなーく顔も忘れそうだったけれど
写真を撮ったり所持したりするのは
この恋ではルール違反な気がしていたし
会った時に顔を見る喜びもひとしおだったので
ずっと言わずに来ていた。




10年ほど経ったある日
彼が恐る恐るという感じで切り出して来た。


「写真撮ったら嫌かな?」


「私は大丈夫ですけど…」




確か、さくらんぼ狩の日が写真デビューだった。



10年もお互い言い出せなかったのに
一度撮ると
それ以降
出掛ける度に写真を必ず撮るようになった。



ご飯に行った先々でも毎回
いただきます!の前に

「撮りまーす!こっち見て!」と

焼肉の七輪込みでメインは彼、の構図で
一枚パチリ、が私も当たり前となった。




先週のスペイン料理の時に
席に案内されて座ると同時に

「この前の旅行の写真、ちかちゃんのスマホで撮ったの全部見せて〜」

と、彼が私のスマホを求めて来た。




二人、顔を近づけてスマホを覗き込む。



“この写真、二人とも良い顔してる!”

“これは目に埃入った!って涙流した後だね。
ちかの左目真っ赤だ”

“いやぁ、信じられないくらい絶景!
本当に楽しかったねー!”

“写真撮ってる俺を撮ってたんだ?笑”





パエリアが運ばれてくるまで
写真を見ながら盛り上がった。



写真を見ると思い出が鮮明に甦る。



写真を撮るようになる前も
二人でたくさん旅行もしたし
とても濃い10年だったのに
一枚も残っていない。


始まった頃の若かった二人の姿も残っていないのが残念だが

お互い写真が欲しいと思いながら
いろんな事を考えて
言い出すまでに10年かかったのも
私達らしいな、と思う。


初めから写真を送り合ったり
撮り合ったりする方達が多いのだろうか。
婚外の危機管理として写真は持たない方もいらっしゃるだろう。



遡っても
遡っても
彼との思い出はたくさんあり


記録は残っていなくても
他の出来事は多少薄れていく記憶の中で
彼との温かい時間だけは
しっかりと心に刻まれている。