昨日ポリーニが亡くなった。

ネットニュースの中でたった3行。

昔は違った。

カラヤンや、ルビーンシュタイン、ホロビッツ、グールドが亡くなった時は新聞の一面にでていた。

もうクラシック音楽は誰も聞かない。

っか、アーティストがいない。

想像以上にストイックな生活をして連日課題曲と向き合う。

そして得られるギャラは僅か.....

割の合わない仕事だろう。

だからこそアーティストなんだろけど現代はそんなアーティストなんか求めていない。

人々を瞬間的に熱狂させるインスタントラーメンみたいな奴ばっかり。

じっくり向き合うなんてことはしない。


ホロヴィッツやルビーンシュタインの時代は違った。


そしてポリーニの時代。

ショパン国際ピアノコンクールでダントツの優勝。

審査員長の"ピアノの王様"ルビーンシュタインをして「ここにいる審査員の誰よりも上手い」と言わせた実力。

ごりっぴぃがポリーニを知ったのはショパンの練習曲。

中学生の時にLPレコードの帯に「これ以上何を望みますか」みたいな挑発的なことが書いてあり、聴いてみたらA面の1曲目からぶっ飛んだ。

今聴いても鳥肌が立つ。

どこが「エチュード(練習曲)」だ?

もし、こんなふうにピアノが弾けたら命もいらないと本気で思った。


  今はLPからCDに買い直した。


その後もパーフェクトな演奏をリリース、

他の演奏者を寄せつけない緻密な演奏は「コンピュータが演奏している」とか「人間味が無い」とか批判の対象になった。

今だったらAIが演奏していると言われるだろうか?

しかし演奏しているのは明らかに血の通った人間であるのは見てわかるし、それを批判するのは負け犬(ヘタクソ)の遠吠えのように見えた。


しかし、ベルリンフィルの主席指揮者、クラウディオ•アバドと共演したベートーヴェンのピアノ協奏曲はあまりにも出来すぎてたしかに退屈だった。


その後39年かけてベートーヴェンのピアノソナタ全集を完成させた。


近年、新進のピアニスト達が数年で完成(とりあえず全曲制覇・録音みたいな)するなかで39年をかけてじっくり熟成させたワインのようだ。


  (SACDで聴いて欲しい)


ベートーヴェンのピアノソナタ29番ハンマークラーヴィア第4楽章を正確に破綻なく演奏できるのはポリーニ以外知らない。

そして30番の第3楽章の旋律は森の中で雫が滴るような表現。



2016年のサントリーホールで聴いた時、ピアノに向かって歩く姿はヨレヨレで大丈夫か?と思ったけど演奏はやはりポリーニ。

でも70〜80年代のキレは見られずなんか寂しかった。

やはりポリーニも老いには勝てないのか?


最後の録音は2019年のベートーベンの後期3大ピアノソナタ(30・31・32番)の再録。

ベートーヴェンピアノソナタ全集を完成させてまた再録とは....

まさかピアノソナタ全集を第2周する気か?と思った....

登山で例えるならエベレストみたいなピアノソナタを再録しポリーニはその後亡くなるまでの5年間リリースをしなかった。

今思えばこの最難関曲で自分のピアニスト人生を終わりにする覚悟があったのだろう。

ベートーヴェンのピアノソナタの最後と自分の人生の最後を重ねていたのか?

壮絶な意志。


ピアニストという表現者に殉じたポリーニ、ありがとう。

暫くの間はポリーニを聴いてその時代の自分を思い出したい。