激痛に耐えた割に無意味だったエコー検査は終了し、腹部のローションが拭き取られる。
医「ん~、駄目だなレントゲンで見てみよう、、、」
(だったら最初からレントゲン使えよっっっ!!!)
この間に腹部で石が動いたのか、痛みの激しさが増してきた。
額から頰にかけて冷や汗がツーっと流れる。
俺「せ、先生、、、痛みが強くなってきました、、、。ぐぅ、、、」
医「え?仕方ないなぁ、、、痛みで暴れられたら見にくいし、、、、痛み止めの座薬入れるかぁ、、。」
(そんなの有るなら最初から入れろよっっ!!!!!)
医「では、隣の部屋に連れて行って、座薬いれてあげて。」
(これで、少しは痛みが楽になるか、、、ふう、、、)
俺は看護師に連れられ隣の部屋に行く。
そこは、レントゲン室で診察室より狭くて暗い部屋だった。レントゲン機材とベットが並んでいる。
看「そのベットに寝てください。」
看護師がゴム手袋を着けながら言う。
俺「は、、い、、、」
(え??!!お前が入れるのか??!!お前か??入れるのか??!!!)
医師が来る気配は無し、看護師は黙々と座薬投与の用意を始めている。
(ちょっ、、!!え??え??)
見れば俺より遥かに若い看護師、今から肛門に座薬を入れるというのだ。
激しく動揺しつつも、ベットに横たわる。
腹痛は如何ともしがたい、だが羞恥心がせり上がって来る。
(え?え?今からコイツにケツの穴みせるの???え?え?)
むろん、泌尿器科の看護師だ、何百人もの男性の肛門は見飽きる程見ているだろう。
だが、問題はこちら側だ、こんな病気ははじめてだし初対面の女性に肛門を見られるなんて事はもちろん経験が無い。
ひどい動揺を起こす。
看「壁側に向いて寝て、背中をこちらに向けてください。」
俺「は、い、、、」
看「膝を抱える感じのポーズをして下さい。」
俺「は、い、、、」
看「ズボンを下げてお尻を出して下さい。」
俺「、、、、、、。」
俺は意を決してデニムをズリ下げる、腹痛を和らげる為だ、形振りかまってられない。
次の瞬間、肛門に痛みが走り同時に物体が内部に侵入してくる感覚がする。
(むがああぁぁぁぁぁあああ!!!!!!!!!!!)
看「はい、終わりましたぁ」
俺「、、、、、は、い、、」
処置は一瞬で終わった、すぐにデニムを元に戻すがこの上ない惨めさが込み上げてきた。
(なんでこんな事になっとるのだ、、、)
泣けてくる。
看「薬が効くまで暫くかかります、それまでそのまま待っていて下さい。」
と、告げると看護師は何事も無かった様に退室して行った。
言われた通り痛み止めはすぐには効かず、暫く痛みに耐える時間となった。
しかも痛みの大波がすぐに来てしまい、俺は薄暗く狭い部屋でうめき声を響かせるハメになる。
悶絶しながら痛みに耐えていると、医師が顔を出した。
医「どう?痛み引いてきたか??」
俺「あ、いや、、まだかなり痛いっす、、、」
(いやいや、幾ら何でも早いだろぅ!!)
医「あ、そう、、。まあでもレントゲンやっちまうかぁ」
俺「え?、は、はい、、、」
(ええぇぇぇマジで??まだ痛いんだけど、、、)
すぐにそのままレントゲン検査が開始された。
その間、俺は冷や汗ダクダクのまま横たわっていた。
何度か息を吐いたり吸ったりして、レントゲン撮影は直ぐに済んだ。
この間、投与した座薬は全く効いていない。
先程の診察室に案内される。
現像されたフィルムを投影ランプにかけながら医師が説明しだす。
医「ほら、見て。ここに石がある。結石だな。」
俺「は、はぁ、、。」
(いや!いや!だから!!最初から結石だってツってんだろ!!ヤブ医者がぁ!!!)
医「腎臓の直ぐ下の管に詰まってる感じ、、尿管結石だな、、、2ミリ以下だから超音波破砕もできんなぁ、、、、、自然排出待ちだな。」
俺「そうですか、、、どれくらいで出てきますかね??」
医「ん~、二、三日ってところかなぁ。」
俺「は、はぁ、、、」
(二、三日??その間腹痛に耐えねばならんのかぁ???!!!)
だが、現状どうする事も出来なさそうだ。
つまり、二、三日の間は苦痛が続くかもしれないということ。
正直、絶望でこの後の医師の説明は半分ほどしか頭に入らなかった。
やがて診断がおわり、診察室を出た。
腹痛はまだおさまる気配はない。
支払いと薬を受け取りにカウンターに向かうと、更なる絶望を味わう。
看「お薬はここから北に100メートルほどの薬局で貰ってください。」
薬はこのクリニックでは出してくれず、別の薬局で受け取るシステムだ。数年前から増えだした迷惑なシステム、今の俺にとっては命取りだ。
俺「す、、すいませんが、座薬が効くまでここで休憩しててイイですか??」
最早、100メートルを無事に歩く自信がなかった。
看「お昼休みとなりますので、そのままお帰りください。」
女性だが、ぶん殴ってやろうかと思えた。
彼ら医療従事者にとっては結石など、命に関わらない病状であり、見慣れたものかもしれない、だが、こっちからすると一世一代の激痛を伴う症状である。この両者の思惑のギャップの差は埋まらない現実なのだろう。
這うようにして歩き、途中、胃の内容物が無い為、胃液だけのゲロを一発、街路樹に放ちながら、100メートルを歩ききった。
薬局の自動扉を開けると同時に、握りしめていたクシャクシャの処方箋を差し出す。
俺「こ、これをお願いしますっ!!!」
受付カウンターには若い女性の薬剤師さん。
薬「どーしたんですか?!大丈夫ですか?!」
すぐにカウンターから飛び出てきてくれる。
薬「そこのソファーに寝て待ってて下さい!直ぐにお薬飲まれますよねっ!???」
抱えられる様にソファーに寝かされる、おそらく顔面蒼白だったのだろう、先程のクリニックとは雲泥の差で対応してくれた。
しばらくして、薬と水を持ってきてくれる。
薬「大丈夫ですか??これ飲めますか??」
俺「う、う、はい、、」
対応の差があり過ぎて、まるで天使の様に感じてしまう。
(これが噂に聞くナイチンゲール症候群かよ、、、)
などと冷や汗ダラダラ流しながら考える。
薬を飲み、そのままソファーに寝ておくこと10分程、徐々に痛みがマシになりだす。おそらく飲み薬ではなくクリニックで投与した座薬が今ごろ効いたのだろう。
だが、いつまでも寝ていては迷惑なので歩けるぐらいにまで回復させて、よろめきながら帰宅した。
その後の結果として、石は次の日には流れ出たらしく、病状は劇的に良好となった。
と、言うより石さえ排出されればケロッとしたもので、普段の日常へと復帰できた。
苦しみは1日で済んだのだ。
後日、原因は水分不足と判明。
職業がネイリストである為、お客様が連続すると食事はおろか、水分補給もままならない時が多々ある。
むしろ
「水も飲めないほど忙しい俺ってカッコいい」みたいな変な充足感を持ち合わせていた。
その結果は愚かにも尿管結石というしっぺ返しで現れたのだ。
ネイリストに限らず、多忙な職業にある人は必ず水分補給は欠かさないで頂きたい。
結石の腹痛は文字通り地獄である。
もちろん男女関係なくだ。
なお、結石はアメリカでキングオブペインと呼ばれる。
キングオブペインとは「痛みの王」という意味である。
完