檀家さんの奥さまの父上が亡くなられた。菩提寺は無いという事で当山で葬儀をすることになった。戒名の字を選ぶために故人のお人柄、趣味、お仕事、今まで暮らしていた土地についてもお聞きした。

戒名の字を見て、その人を知った身近な人がその人を彷彿とさせられると良い。

お聞きすることでその方の人物像を想像する。遺影を見ても、その人を想像する。

親し気な好々爺という感じだった。娘さんの話では「人当たりが良い」という事だった。

30分前に着いて、洒水器等の設えをして衣を見たら、色衣直綴が無かった。紙の包み袋に夏・住職色衣直綴と書いてあったが、別のものが入っていた。急遽家に電話をして持ってきてもらった。届いたのが10分前なので、間に合った。

荼毘に付している間にお斎。献杯のあと、戒名の説明をさせてもらった。

 

仏さまの戒を守り修行して自らも仏になって、仏さまとして残された方々を守って下さる戒名。

 

真言宗のお位牌の特徴は、戒名の上に梵字が入っていることです。
梵字とは、古代インドの言語、サンスクリット語の文字です。
この梵字の中で、お墓やお位牌に書かれている梵字は、ほとんどが「阿(ア)」という文字です。
 

  👈大日如来を表す梵字「ア」という文字。

阿字は、日本の五十音の「あ」、アルファベットの「A」と同じく、梵字の一番最初の文字です。
しかし、梵字には、五十音やアルファベットにはない、大きな特徴があります。
「あ」や「A」は、文字自体に意味はありませんが、梵字はその文字ごとに、それぞれの意味(字義)を持っています。その点は漢字も同じです。

 

阿字には、「本不生(ほんぷしょう)」という意味があります。
阿は最初の一文字ということから、すべての根源本質を表し、それは、不生不滅であるという意味です。

「本不生」は「本より生ぜず」、つまり、元々生まれてもいないという意味です。

ここで大切なことは、「根源」は「始まり」とは異なるということです。
「始まり」ならば「終わり」があります。
だから、人は一回生まれてしまった以上は必ず一回死ぬことになるのです。

しかし、生まれていないものは死ぬこともありません。
つまり、本不生は、生まれたり死んだりすることを離れた全ての根源生み出される元)、不変の世界を表しています。

これこそが密教の説く真理、悟りの世界です。

また、密教では、仏様を「種字(しゅじ)」という、梵字一文字で表すことができます。
阿で表せられるのは大日如来です。
大日如来様は密教の根本の仏様であり、万物の根源、宇宙そのものを表すからです。

大日如来の存在を時間的には無始無終、空間的には不来不去とも言います。つまりは全てが大日如来の世界なのです。我々は父母を縁として、大日如来の子どもとして生まれ、生まれた根源に帰って行きます。

 

曹洞宗や臨済宗の白木の位牌では、白木位牌の1文字目に「新帰元(しんきげん)」と記されます。新帰元は「現世の務めを終えてあの世に戻る(新たに仏様の世界に帰る)」ことを意味します。新しく元いたところに帰る。同じ意味合いでしょう。

 

このようなことから、真言宗では、戒名の上に阿字をつけることによって、亡くなった方が本来の世界に還っていったこと、仏そのものになったということを表しています。

「阿字の子が 阿字のふる里立ち出でて また立ち返る 阿字のふる里」

というご詠歌の文句がありますが、これも、「生み出されたいのち」が「生み出される元」に還っていったことを表しているといえます。

 

会食の時にビールを注がれて断らずに飲んで少し酩酊。