「寒 雀」(かんすずめ)

                  加 藤 高 穂

 

    寒雀餌にくる鞠の弾むごと

 

 庭にくる雀に、妻が餌を与え始めて、何年になろうか。毎朝、食事時になると、隣家の軒下に行儀良く横一列に並んで、今か今かと、こちらの窓が開くのを待っている雀たちの姿は、何ともいじらしい。

 そんな彼らだが、田圃に稲が実る頃になると、「こっちの方が美味しいもん!」とばかりに、ぱったり姿を見せなくなるから現金なものである。

 だが、飼い鳥でないため、どれだけ家を留守にしても、何ひとつ心配は要らない。また餌をやり忘れても、文句を言われることもない。自由気儘なのは、お互い様なのである。

 秋の収穫期、自然界に餌が豊富な時期には、何処に行ってしまったのか。雀たちは、まるで魔法のように目の前から消えてしまう。それも束の間、冬になると、雀たちは再び戻ってきては、朝ごとにわが家の硝子戸が開くのを待っていてくれるのである。窓をあけると、寒さに羽毛を膨らませた雀たちが、まるで鞠の弾むように次々と飛び下りてきて、餌を啄み始めるのだ。

この正月も里帰りの子供たち家族で、我が家は小さな運動部の合宿さながら、急に賑やかになった。妻が、「雀さんに餌をやって」と声を掛けるや、幼い子たちは嬉々として集まり、「すずめさん、おいで!ごはんだよ!」と呼びかける。

 しかし、雀たちは近づこうとしない。好意が好意として通じないのだ。そこには雀たちの長い受難の記憶が親から子へと受け継がれてきた、その悲しい現実を突きつけられた気がした。