「どくだみ」
加 藤 高 穂
どくだみや満員電車の人いきれ
どくだみや白き十字架の花かかぐ
花壇に生えた草むらの、細く小さな道を横切ったときだった。思いがけなく、足もとから優しく爽やかな香りが立ちのぼり、あたりに広がったのである。そればかりでない。草が触れたズボンにも芳しいかおりが残り、暫しその甘しい薫香を楽しませて貰った。
ただの草と思ったのは、香料植物のラベンダーだったのだ。地中海沿岸地方が原産で、南フランスで多く栽培されるというだけに、明るいイメージが伴う。
それに引きかえ、日陰の湿地に自生するどくだみは、同じ植物でも、その強烈な臭いを嫌う人が少なくない。繁殖力旺盛で飯倉の空家を借りて日曜礼拝を行なっていた頃、庭の片隅に生えたどくだみを見逃していたら、あたり一面どくだみに占領されたことがあった。
それを退治するには、根っ子から掘り出さなくてはならない。だが根茎はポキリポキリと、いとも簡単に折れてしまう。その小さな千切れ根が土中に残っていると、そこから新たな生命が生まれるのだ。
とまれ、この雑草の名称は、「毒を矯める・止める」の意に発しており、古来、整腸、利尿、解毒、駆虫薬、化膿、創傷の民間治療薬として知られ、「十薬」の名を冠せられてもいる。
厄介者扱いをされながら、泥臭く、ドン臭く、したたかに生きるどくだみは、人々の病や傷を癒し、健気にも白い十字の花を咲かせ、掲げ続けているのだ。少しなりとも、その姿にあやかりたいものである。
〔2018.7.20.〕