「鰹(かつお)」    加 藤 高 穂

 

    入れ食ひの竿次々と鰹漁

 

    いっせいに竿躍らせて鰹舟

 

    宙に舞ふ一本釣りの鰹かな

 

 わが家の子どもたちが、急速に成長していった幼少期。「さあ、いらっしゃい!いらっしゃい!」と、ねじり鉢巻の鮮魚店の大将が、威勢よく売り声を響かせ、客を呼び込む姿を見かけたものだった。

 その張りのある声を聞くだけで、こちらまで元気を貰う気がした。実際、若かりし日の妻は、顔なじみとなった店の大将に、何度も気前良く値引きをして貰い、こぼれる笑顔で買い物から帰って来たりもした。

 五月の声を聞く頃となれば、そんな魚屋さんの店先に、背中は暗青紫色、腹面は銀白色で脂ののった鰹が、何尾も並ぶ。

 体長は四〇から九〇㌢、紡錘形で遊泳力の強い鰹は、時速百㌔で泳ぐという。小魚を貪食し、春から秋にかけ、大群となって、黒潮に乗り、太平洋岸を鹿児島の南から北海道まで北上する。青葉の頃には、相模灘にさしかかる。この時期の鰹は脂ものって、最も美味とされ、古くから初鰹として珍重されてきた。

 鰹漁の現場を見たことはない。だが、ある時、テレビで放映されたのを、興味深く見せて貰った。鰹の魚群に鰯の生餌を撒き、竿で一本釣りをするのだ。その勇壮豪快な釣りの情景は、忘れることができない。その一尾々々が、どれだけ私どもの生命を養ってくれたことか。鰹に限らない。私どもが日々を生きるため、どんなに多くの生命に助けられていることか。それを想うと、感謝以外にない。