みね子さん好物は数々あったけれど、苦手なものは一言で片付く。

それは…『長いもん』(長い物)


大抵の方の想像通りヘビ。

みね子さんはヘビが大嫌い。テレビの画面に写し出されてるヘビですら、『あかんわ』と 声が出る。みね子さんの娘が見ている図鑑や絵本でも、気味悪がった。


都会でも、昭和の頃には天井裏にヘビが入ってきたりしていたから、何かのはずみで遭遇しようものなら、叫び声も出ずに固まってしまっていた。


長屋のひとつおいて隣の家は、どういうわけか毎年ヘビが出る。

ヘビ本体の目撃はないのだが、毎年必ず脱け殻が台所に出現する。

長屋なんだから、別の家に出たってよさそうなものなのに、なぜか必ず決まったお宅で脱皮している。


ヘビの皮は縁起物として、財布にいれる人も多いと思うが、ヘビがダメなみね子さんも、背に腹はかえられぬと、ほんの少し皮を頂戴しては財布に忍ばせていた。

でも、絶対自分では触らない。家族ぐるみの付き合いをしているお宅だったから、みね子さんの事情は よーくご存知。ちり紙に包んで、中が見えないようにして持ってきてくれる。


ある年、それはそれは綺麗なトグロを巻いた皮が現れた。そこのお宅ではすでに完璧な皮があるから、親しいみね子さんに持ってきてくれた。

「あんたのとこにもご利益あるようにな」と


「へびはあかんわ」と言ってたみね子さんだが、さすがの縁起物には遠慮しなかった。大きな茶封筒に入れられた脱け殻は綺麗なまま現存している。


ただ、みね子さんちに保管されていたのはほんの数年で、みね子さんの娘の嫁入り道具に その茶封筒は入っていた。


ご利益…さぁてどうかなぁ