16:変分原理(1)
私たちの実在世界のモデルではどのような理由で変分原理が現れ、またこの原理はなぜ数学的にラグランジュ密度を選ばざるを得ないような組み立てになっているのでしょうか。
実在世界の適切なモデルを構築し得る理想的な測定法の性質を記述するさいに、この性質にある程度の不確定性が含まれねばならないことが明らかになっています。この不確定性はスケールそれ自体を変化させることによって直接測定することに原理的に限界があるために発生し、またある種の非線形変換の精度だけで接続対象の型を決定しようとすることに原因があります。この後者の変換は視点の消極的な変化である座標変換を積極的な形にしたものです。たとえば、不変量はすべての許容される観測者(理論的に存在可能な観測者も含めて)にとって同じでなければなりません。これと同様に、許容される総体の中からアフィン接続の具体的な対象の型を任意に選んでも同じでなければなりません。したがって、これら2つの消極的な変換と積極的な変換はスケールの同じ性質の相対的な変化を表わしているにすぎないことが分かります。こうして、アフィン接続空間の接続によって発生する任意のスカラーに対して接続係数が変分的に変化する現象を変分原理として公式化することが出来るわけです。
実は、このスカラーの重要性、つまり、スカラーの「一般性」とか「特殊性」にしたがって、相応のラグランジュ方程式は「一般的」な性質を持ったり「特殊」な性質を持ったりしますが、しかし恒等式的にはそれぞれの性質にしたがった構造をしています。言い換えると、「2:アフィン接続係数(4)」で紹介した4つのスカラーΔ密度の式(ℒ,S(-),ℒ(-),ℒ')はアフィン接続空間にとって最大限に一般的なものであり、したがって、これらのラグランジュ方程式はこの空間に対して成り立つビアンキの恒等式なのです。
本質的に言うと、変分原理はひじょうに一般的な方法論的な原理を数学的に公式化したものなのです。実は、私たちは初めの段階ではこの原理を公式化していませんが、暗黙の内にこれにしたがって議論しています。この原理はいかなる現象の記述に対しても応用出来るのです。つまり、
●1つ以上視点を許容している記述はすべて不変で定常な構造も、また最後まで決定し得ない成分も含んでいます。記述のポイントは視点をあまり変化させない消極的な変化から記述している系の性質そのものを反映している成分を積極的に変える変化に移すことが出来ます。ポイントを変化させても、記述の大切な特徴である構造の成分は視点を変える場合と同様に不変です。
記述するさいに定常で不確定な(一義的に固定されない)成分を選択することはそれ自体に問題があります。2つのタイプの対称性を議論する過程で、多くの不変量はより詳細に考察すれば結局は絶対的でなく、相対的であることが分かりました。この意味で、不変量が最少で、(第一型の対称性の意味で)最大限に対称的であって、しかも視点が最大限に広い状態で定常的であるような記述が一番理想的だと言えます。