1:実在世界と多様体(2)
一方の理想的測定法から他方の理想的測定法に移行した場合、これらの関係は互いに連続体と1:1の対応関係にある写像によって描かれます。これから「適切な」という用語がたびたび出て来ますが、正にここにその意味があります。つまり、像の中の1つの対象(数値的連続体の中の1つの点)が実在世界の中の1つの対象と正確に一致しているということなのです。もちろん、この逆も成り立ちます。
したがって、実在世界の同じ領域を理想的に描いた像はすべてこの関係になければなりません。また、この場合、連続体の次元数は測定に使われるスケールの数に等しく、また理想的な連続体を写像するさいの不変量でもあります。
それではここで、実在世界の理想的な像について、つまり理想的な測定法について議論しましょう。
ある観測者が自分が測定している実在世界の小さな領域の像だけを記述したとしましょう。また、もう一人の観測者がやはりこの実像世界の小さな領域を、しかもまったく同じ領域を観測し、そしてこの部分の領域の像を記述したとしましょう。ただし、この後者の観測者は別の測定法を使っていたとしましょう。もしこれらの像が理想的な像であるなら、これらの像は互いに1:1の写像関係で結ばれていると言えます。
この実在世界の像、ないしかなり広い領域の像は、さまざまな観測者の局所的な像を貼り合わせることによって与えられます。これが実際に可能であるためには、隣り合う観測者の測定領域に重なりの部分があること、それから彼らの測定方法がここでは互いに一致していることが必要です。なぜなら、実在世界を構築するすべての小さな領域は互いに1:1の関係で写像されなければならないからです。
たとえば、実在世界のさまざまにずれた小領域の像が一致しているとしましょう。実は、測定法として実在世界上のさまざまな点に基準点が隣接するように置かれているからなのです。このような性質を持った連続的な数値的集合は多様体と呼ばれています。このように、多様体は局所的な記述に必要な大切な概念なのです。
それぞれの観測者によって求められた像はこの多様体の「地図」と言えます。この地図が実在世界の領域を部分的に覆っている場合があれば、また完全に覆っている場合もあります。これらの地図が集まって「世界地図」が作られるわけです。
実在世界のそれぞれの対象はこの地図上に座標{x<i>}を持った点で記述されます。なお、この座標は次元数であり、またこれによって対象同士の区別が可能となります(ここで、記号x<i>の<>ですが、これはiがxの上付きであることを意味しています)。スケールは各点と結ばれている単位基底ベクトルで記述されています。一方の理想的測定法から他方の理想的測定法への移行はそれぞれの地図上で座標変換によって行われます。ただし、古い座標の関数としての新しい座標{x<i'>}は連続的で、しかも互いに一義的でなければなりません。この結果として、座標の微分可能性と行列式に対する制限が次式で与えられます。すなわち、
Δ=det||∂x<i'>/∂x<i>||≠0.