8:正規計量とローレンツ群(9)

 

 測定法は実験者の必要に応じて利用出来ますが、しかし直交的なスケール系は他のスケール系の中から客観的に選び出さねばなりません。つまり、この測定法では実験者の立場から、定義にしたがって光の伝搬速度があらゆる方向に対して同じであること、また実験者自身が存在している間はこの速度は少なくとも同じであること、これが前提になっています。

 時間と空間の測定単位の値は別々に選択されますが、特別に選択する場合は正規計量テンソルの対角成分は次元的な単位となります。ここでは正規計量テンソルであることを強調しますが、それは局所的慣性座標系だけで測定法を制限すると正規区間と同じ種類の相対的不変量が形式的に現れるからです。

 なお、正規計量テンソル(リッチ・テンソルの対称成分の一部)によってそれぞれの時間的スケールが存在する部分空間の中に標準スカラー・パラメーターがはっきり発生することに注意しなければなりません。時間的スケールの時間の単位の値が一定である場合、軌道に対する接線ベクトルは唯一の自然なノルムを持つことが出来ます。また、このベクトルのノルムを決定する場合、(これをリッチ・テンソルの値に結び付ける)正規計量テンソルではなく、リッチ・テンソルの値に任意の係数で比例するテンソルをア・プリオリに使うことが出来ます。

 実は、このようにしてノルム化する場合、接線ベクトルのノルムは別の空間的スケールの値と自然にノルム化された時間的スケールとの間の割合によって決定されます。最新の理論の中にこの係数が入っている場合、正規区間ないし2地点間の不変的(次元的)距離と解釈される区間と形式的に一致する相対的不変量が存在することを意味しています。

 さらに実はですが、区間を距離と解釈することによって「計量」テンソルという用語が発生しました。議論にさいしてはより自然な「正規化(ノルム化)」テンソルという用語があります。現代物理学の計量テンソルは定義にしたがって無次元であり、つまり、何等かの条件が与えられない限り理想的なテンソルとは言えません。この問題の詳細は重力場を記述するさいの問題を考慮しないとはっきり理解出来ないので、もう少し後で詳しく議論しましょう。

 ところで、私たちは自由な選択によって記述の対称性を破ったため、慣性的な局所的ローレンツ座標系を選んだのでした。とは言え、拒否することの出来ないやむを得ない事情がここに発生しています。スケールの座標を2つのグループに分けねばならないこと、つまり、直接実在化出来ない空間的グループと直接実在化出来る時間的グループに分けねばならないことです。

 この区分は実在世界それ自体の性質によるものではありません。実在世界に属する対象の観点からこの世界を記述するさいに発生する性質によるものです。この場合に発生する対称性の破れは「対称性の自発的破れ」にほぼ近いと言えます。対称性は存在していますが、しかし私たちの測定によって「非対称的」な結果をもたらしてしまっているわけです。かえって実在世界を概観的に緻密さにこだわらずに記述した方がこの対称性の出現を期待出来ると言えます。

 これと関連することですが、一般的に許容される非線形変換群の中から局所的ローレンツ変換の部分群を抜き出すことが出来ます。このように抽出しても、それが絶対的であるわけでなく、またこれで他の変換群の利用が禁止されるわけではありませんが、ただこれで局所的慣性測定法群の結果が簡単に比較可能になります。また大域的には対象が共存する全領域でこのような測定法の利用が保証されています。