わたしのreal -2ページ目

0209

目覚めたら、小さな子供たちのハシャぐ声が聞こえる病室にいた。


薄いカーテンが閉まった窓の方から、楽しそうに笑う声だった。


泣くことくらいしかできなかった。
何もない天井を見上げ、隣には誰もいなかったけど、ごめんなさいって呟いた。


少し休んで、ゆっくり看護婦さんと話をして、彼は迎えにきてくれないの?の問いに、涙ながら来ませんってだけ応えて、病院を後にした。


19歳の5月。


一生忘れない5月。






とぼとぼ歩いていたら、目の前に彼がいた。
悲しいような寂しいような顔をして、付き添えなくてごめんってだけ言って、


そして二人は手を繋いで帰ったんだ。




落ち込む私を気遣い、悲しむ私を励ましてくれた。


私は彼がただ側に居てくれるだけで大丈夫だったんだ。


だけど私たちが背負ったものは、想像をこえる悲しみと苦しさだった。




彼の中の私は、ちょっとずつちょっとずつ‘辛いことを思い出す’人になっていた。


私の中の彼は、ちょっとずつちょっとずつ‘居なくちゃ生きていけない’人になっていた。


このすれ違いから、寂しい日が続くようになった。


彼が渡したから目をそらした瞬間、


ごめんねって彼に言った私の気持ち、



伝わってたのかな。

0208

大好きだよって言ったのに。


帰る私を後ろから抱き締めて‘帰したくない。自分が思ってたよりずっと好きなんだけど’なんて、普段口に出しては言わないこと言ってくれたのに。


今度の休みは二人とも一緒にバイトだねってハシャいだばっかりだったのに。




真実・事実・現実が、私たちをすっぽり囲って、身動きがとれなかった。


19だったけど、まだ学生だったけど、本当は、本当はね、お母さんになりたかったの。どんなに無理だって周りに言われても、愛してる人の子を亡くすなんて、考えたくなかった。


だけど、私と彼が選んだ道は、私たちの子を育てることではなくて、亡くすことだった。



悲しくて悲しくて悲しくて。
一人どこかへ行ってしまいたかった。




だけどね、
彼は

‘俺が高校生じゃなきゃ産んでって言えるのに、ごめん。この子の分まで二人で幸せになって、もっと大人になってまた二人の子を授かることができたら、この子の分まで愛そう。俺、絶対忘れない。’



涙が溢れた。
私も一生忘れないし、ずっと愛してるってお腹に向かって囁いたんだ。




なにもしてなくても涙は溢れて、食べ物の匂いが具合悪くなって、よく分からないけどダルくなって………


でも彼はずっとずっと側にいてくれたしすごく優しかった。


彼の声も仕草も匂いも、全部愛してる。


産んでであげられなくてごめんね。本当にごめんね。許してなんて言わないから、ずっと憎んでいて、私を許さないで。


でもこれだけは分かってね、あなたを忘れたことは一日だってない。

あなたに会いたかった。会いたくて会いたくて会いたくて涙が溢れるんだよ。


あなたと別れる日の朝。泣くことしかできず、謝ることしかできず、今ならまだ止められるって何度も思った。
自分から断った彼の付き添いを、病院についてから後悔して、心細さと虚しさ、そして罪悪感と悔しさ、いろんな思いが心を忙しくした。


全身麻酔。
病気でも怪我でもないのに。
遠のく意識の中、ごめんなさいって言いながら私は意識を手放した。


夢を見た。手術中に。小さな女の子が泣かないでって私の手を握り、大丈夫だよ、ずっといるからねって、私を慰める夢だった。


心に穴があいた日。ふさぐ事なんて出来ない心の穴。

ごめんね。

本当はね、お母さんになりたかった。彼がやっぱり育てようって言ってくれるの待ってたの。

叶わなかったけど…

0207

私の気持ちはずっと冷めることなく、彼を愛し続けた。彼のために何か出来る幸せ、頼り頼られる喜びを教えてくれたのも彼だったし、愛されるというこの上ない感情を感じさせてくれたのも彼だった。

ただ、彼は追い掛けたい人だった。夢中になりすぎて気付けなかった。
いつしか追いかけるばかりになった私。そして他ばかりに目がいくようになった彼。

確かに16歳の彼を縛っておくのは難しかったと思う。

だけど永遠信じさせてくれたのも彼だったから、当たり前にこれからもずっとずっと一緒にいられると思ってた。


会いたくて会いたくて涙が溢れ、
側にいなくても愛を感じたあの頃は嘘だったの?


愛することをやめないでいて欲しかった。


彼が17歳になってすぐの春だった。





彼と私に、天使が舞い降りてきた。



天使。







もともと痩せていたから、生理が遅れるなんていつものことだった。
だけどある日突然、食べ物の匂いに具合悪くなりはじめ、どう考えてもおかしいと薄々感づき始めてた。だから半信半疑で検査をしたんだ。

検査薬を買うことも本当にドキドキして、怖かった。


でも、一人で検査をしたんだ。


誰もいない自宅で、いろんな事を考えて、陰性なのか陽性なのかを待った。




そう、天使は私のお腹にすでに住んでいたことを知ったんだ。


一人不安を抱えながら、
一晩誰にも言えずに、
17歳の彼にはすぐに連絡をすることもできず。


あの日私は彼に、大好きだよってメールをしたことも覚えてる。
急にどうしたの?って言いつつも、俺も大好きだよって言ってくれたよね。