先生のための七夕飾り -小野さつき訓導の話を知っていますか?- 《by マッツアン》 | いっきゅう会がゆく~宮城マスター検定1級合格者のブログ~

いっきゅう会がゆく~宮城マスター検定1級合格者のブログ~

  難関ご当地検定として知られる宮城マスター検定1級の合格者で作る「いっきゅう会」のメンバーが、宮城の魅力をお伝えします!

 小野さつき訓導の話を知っていますか?「小野さつき」は人の名前だろうと推測できますが,「訓導」という耳慣れない単語が気になりますよね?意味は教え導くこと,転じて学校の先生を示す古い言葉です。今なら「教諭」でしょうか。

(小野さつき訓導の絵葉書:蔵王町教育委員会提供)

 小野さつき(19011922)は,大正時代に刈田郡宮村の宮小学校(現蔵王町立宮小学校)の尋常科4年生を教えていた先生です。1922年(大正1177日,野外写生として子供たちを連れて白石川に写生に行った際,水遊びを始めた児童3名が川に流され,2人を助けたものの,最後の一人と一緒におぼれて亡くなった方です。命をなげうって子供を助けたということで当時全国的に有名になった話です。蔵王町宮の白石川沿いには殉職地の碑があり,この話を今に伝えています。当時はまだなかったJR東日本東白石駅のちょうど対岸辺りです。

 

 この小野さつきの殉職百年忌の記念イベントが去る74日蔵王町のございんホールで開催されました。

 

入場には事前に配布された整理券持参者のみで,席も一つ置き,検温など万全の新型コロナ対策がとられていました。

このイベントの目当ては,何といっても大正11年に制作された「小野さつき訓導」映画の上映です。当時各映画会社によって映画が制作されたことは色々な記録に残っているので確かなのですが,映画フィルムは見つかっていませんでした。それが,2015年(平成27)北海道の古い映画館から映画フィルムが発見され,DVDになったのです。この訓導の話が映画でどのように表現されているか非常に興味がありました。

開会のあいさつの後,さっそく上映です。タイトルは「人生之花 殉教訓導噫噫(ああ)小野女教員」。映画は2部構成で一部は俳優を使った殉職の再現映画で,後半は宮村で行われた村葬の様子の記録映画です。フィルムは傷や欠落している部分もありましたが,おおむね鑑賞できる映像でした。ただ,無声映画なので会話の内容は判りません。当時は活弁士が解説していたのでしょうね。今回は地元の方のナレーションが入っていました。

前半の再現映画はオール宮村ロケで,エキストラは住民だそうです。当時の宮村の様子が判る歴史資料ともいえます。茅葺の家,当時の宮小学校校舎,事故現場の白石川,児童の服装など興味深い映像でした。エキストラが地域住民ということは,映画鑑賞にきている人の先祖が映っている可能性があるわけで,なんとも不思議な感覚です。

 

(記念行事パンフレットより)

後半は村主催で行われた「村葬」の様子です。亡くなった一週間後の714日に村葬が行われ村長や校長の弔辞や輿を使った葬列など,当時の葬儀をリアルに映し出していました。

(記念行事パンフレットより)

輿を持つ人の額には白い三角の布「天冠(てんかん)」(地域によっては額烏帽子,頭巾,髪隠しなど)をつけています。よく漫画で幽霊が付けている飾りですね。この風習は昭和の終わりごろまで地方の葬儀に残っていました。輿に載せているのが棺でないことから土葬ではなく,火葬だったことも判ります。今でこそ火葬が99%ですが,まだ土葬が多かった時代に火葬は珍しいような気がしました。19229月に刊行された宮城縣教育會「殉職訓導小野さつき女史」(実業之日本社)を読んでみると一度親族による葬儀が行われたあと,714日に村葬が行われたようです。でも火葬の理由は判りませんでした。

気になったのは映画の撮影隊が死後間もない時に村葬の様子や映画を撮りに来たことです。それだけ全国的に評判になったということなんでしょうね。テレビのない時代です。地元では先生の葬式だけでなく撮影隊の様子も気になって仕方なかったのではないでしょうか。

(トークライブの様子)

上映の後,地域住民によるトークライブ「小野さつき訓導思い出語り」がありました。約百年前の話ですので,当時のことについて話せる人はおらず,第二次世界大戦後の話が中心でした。1979年(昭和54)に小野訓導追悼歌「花咲く墓標」を歌った三波春夫さんが歌のお披露目に宮小学校を訪れたこと,管理人室に小野さつき訓導の写真が飾られていたこと,宮小学校にプールができる前までは白石川で水泳の授業があったことなどが語られました。三波春夫さんの歌はどんな歌だったのでしょう。一度聴いてみたくなりました。

印象的だったのが「7月7日の七夕は小野さつき先生のための七夕で,仙台七夕が開催される87日が本番の七夕」という話でした。宮小学校では77日には小野先生を偲んで毎年七夕飾りを飾りながら小野先生の話を聴くそうです。このため,本番の七夕はお祭りとして仙台で開かれる8月7日で,77日は小野先生のための七夕と思っていたとのことでした。それだけ印象深い行事として地域の方の胸に刻まれているということなのかもしれませんね。

(小野さつき訓導ものがたり)

今も地域に伝わる「小野さつき訓導」の話ですが,今年,漫画形式の冊子「小野さつき訓導ものがたり」が刊行されました。欲しい方は蔵王町教育委員会までお問い合わせください。