芦野公園駅に到着である。
太宰治の小説『津軽』の中で、金木町の町長が上野駅で芦野公園駅までの連絡乗車券を購入しようとした所、出札係員に「そんな駅はない」と言われ激昂し、押し問答の末とうとう発券させたというエピソードが紹介されている田舎の小さな無人駅である。
 
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小説「津軽」の中ではこんな名場面が登場する。
 
「窓から首を出してその小さい駅を見ると、いましも久留米絣の着物に同じ布地のモンペをはいた若い娘さんが、大きい風呂敷包みを二つ両手にさげて切符を口に咥へたまま改札口に走つて来て、眼を軽くつぶつて改札の美少年の駅員に顔をそつと差し出し、美少年も心得て、その真白い歯列の間にはさまれてある赤い切符に、まるで熟練の歯科医が前歯を抜くやうな手つきで、器用にぱちんと鋏を入れた。少女も美少年も、ちつとも笑はぬ。当り前の事のやうに平然としてゐる。少女が汽車に乗つたとたんに、ごとんと発車だ。まるで、機関手がその娘さんの乗るのを待つてゐたやうに思はれた。こんなのどかな駅は、全国にもあまり類例が無いに違ひない。」
 
その無人駅舎を通り過ぎ、無人のホームに出た。
 
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丁度金木駅の方角から津軽鉄道の一両編成の電車がやって来たところで、小説「津軽」の名シーンのように、どこからか少女が電車に乗るために出現することを夢想したが、実際はそんなこともなく、電車は無人の駅を通り過ぎていった。
電車が過ぎると空腹が気になりだした。
予定通り、小説「津軽」に登場した旧芦野公園駅舎をそのまま店として使っている喫茶店「駅舎」で昼食タイム
 
 
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中に入ると時代が遡っていくようなレトロな雰囲気で、いたる所に旧芦野公園駅として使われていた時代の思い出の品々が飾られている。
 
 
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ここの店では、太宰が愛したとされるブレンド「昭和の珈琲」が人気だとか。
昭和のコーヒーとは、太宰治が足繁く通い好んで飲んでいた、弘前土手町にある珈琲屋「万茶ン」のブレンドコーヒだそうで、この旅の終盤に滞在した弘前で実際に「万茶ン」のコーヒを飲む機会があるのだが、その話は後日記す。
 
 
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実際のメニューだが、昭和の珈琲=400円、駅舎珈琲=400円、うま~い丼=800円、ぶっかけそうめん=600円、激馬かなぎカレー=730円、オムライス=700円、馬まん=各150円などがある。
僕は激馬かなぎカレーを頼んだ。
 
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こんなカレーである。
地元の馬肉を使用していることで、激旨()と名づけた洒落た名のカレー。
五所川原市金木町の隠れた逸品「馬肉」をじっくりコトコト煮込み、スパイスを効かせていて付け合わせの高菜の漬物との相性も抜群で、しっかり幸せな気分を味わった。