MSエクセルの授業で記入欄を暗算でやり書き入れたら、それが教官に見付かって厳重注意された。簡単な計算でも必ずフォーミュラ(基本計算式)を使用しなくてはならないのだ。もしその基本式を省略したなら、左上部の表示窓が空欄となって、一目瞭然に未使用の証拠となるのである。
10週目の終わりにエクセルのテストがあった。基本問題がほとんどで難なくパスをした。これもチャプター1から5まで、その後はサティフィケイト3へと引き継がれていく。次の週からM Sアクセスの授業が始まる。これは今までに、私がパソコンでは使ったことのないプログラムで、聞くところによるとかなりハードな授業らしい。このIT2コースは合計16週あり、すでに半分以上が終った。このあと何のトラブルもなく無事終了出来ることを祈る。
廊下で椅子に座って、教室の空くのを待っていると、珍しいことに、日本人らしい顔立ちをした若者が通り過ぎた。アジア系の人も日本人と顔が似ているから、ちょっと見ただけでは見分けが付けにくい。だが、どことなく、表情や雰囲気が違うものである。最近になってやっとその識別が出来るようになった。
彼はやはり日本人だった。年齢は二十四、五才だろう。私と同じ時期に入学し、サティフィケイト2を飛び越して3から始めていた。知らなかったが、そういうことも出来たのである。彼は、「ワークシートやテストが合格点に達せず、このままだと卒業出来ないので、もう一度3を受講するつもりだ」と言う。「どうして2から始めなかったのか?」と聞くと、何も云わずに笑っていた。
そう云えば、私のクラスメイツにサティフィケイト2を飛び越し3を受講したがギブアップ、2のクラスに再入学して来た30才過ぎのオーストラリア人がいた。彼が言うには、「ワードやエクセル、アクセスを途中のチャプターから始めたので、ほとんど理解出来ず作業不能になった」とのことであった。
ワークシートや教科書はチャプター1から順序よく進むように作られているので、途中からだと非常に難しくなってしまうのだ。彼は「このコースの授業料は少し割引をして貰ったが、随分無駄なお金を使ってしまった」と嘆いていた。
日本人の彼も全く同じことで悩んでいたのだ。誰でも、ある程度パソコンを使いこなせるようになると、過信が出て上級からスタートしたくなるものである。このITの初歩、サティフィケイト2でも科目によっては英語圏の学生でさえ苦労しているのに、日本人ならなおさらで、彼はいくら英語が出来たとしても、言語によるハンディキャップは大きい。
「もう一度1300ドルも払って受講するの、高くつくなあ」と云うと、「親が出すから良い」と云って笑った。彼は真面目そうな良い青年で、ヤル気があるから、次回はきっとパスするだろう。私は「次、頑張ってね」と言い、「マーケットへ来たら是非寄って下さい」とストールの場所を教えた。
14週目に入った。いよいよ当コースも終りに近づいた。クラスの人数は8人となった。おばさんクラスメイツのジャンが突然教室に来なくなった。その理由はわからない。親友のアマに聞くと、MSワードで二度目のテストに失敗して、大変ショックを受けていたと言う。それが原因かどうか知らないが、このTAFEカレッジでは、今までに度々見掛けた光景である。今度クラスへ来たら、諦めずに最後までやり通すよう励ましてやろうと思った。
年を取るとヤル気とか記憶力の低下は避けられない。これは生活にゆとりが生まれ、ハングリー精神が喪失するからである。ガツガツしなくても暮らせるし、無理に記憶しなくても過ごせる。そうするとさらに記憶力が低下していくのである。
私は彼女に比べたら、英語によるハンディキャップは大きい。しかし学習は言語力だけではない。重要なのはヤル気で、いかにその気持ちを長く持続させるかである。私は駄目でもともとの主義で、この国への永住もいろんな体験を積むのが目的であった。毎日すること、なすことがチャレンジだと思っているから、何をしても新鮮で苦にならず、いつまでもヤル気満々の気持ちを持ち続けることが出来るのである。