【テーマ・りか】


三色の花が
咲いてはしぼみ
やがて枯れて

玉になりました。





今年初めて咲いた
この不思議な色彩の花をみて





息子が言いました。

「これぼくのときはなかったよ。」

もともとこのあさがおは
息子が学校の授業で育てた
あさがおから生まれてますから

そんな風に言ったのでしょう。

そしてふと思い出しました。

教室の掲示板に並んで貼られた
子どもたちの観察絵日記。
そのなかでただひとり
絵だけを描いて文のない
息子の書いた観察絵日記。

思いや気づきを
言葉にすることの難しさを
息子は知っていたのでしょう。

そしてその難しさに抗わず
書けないものは書かないままに
息子はしておいたのでしょう。

そんなつもりはなかったろうけど
きっと先生には書くよう促されたろうけど

意識して書かないものと
無意識に書けないものは
違うのものだということを

無意識の勇気をもって
表現してくれたのでしょう。


あれから数年たったいま
息子は誇らしげに語ります。

葉っぱにうぶ毛の生えるわけを。
つるが上へ上へと伸びるわけを。
たねの生まれるまでの道のりを。
あさがおの花のはなびらが
たったの一枚だということを。

たとえ言葉にならなくても

誰よりも注意深く
誰よりも愛情深く

彼はあさがおを観ていたのだと
わたしはいまも信じています。



たくさんの花が咲き
たくさんのたねが生まれます。

母が来年この種たちをすこし
もらってくれると申し出てくれました。

わたしの家の小さなベランダは
決して広がりはしないけれど

息子の愛したあさがおは
どこまでも広がっていくのですね。





【テーマ・しゃかい】


地下鉄の切符が買えなくて
駅事務室をたずねました。

とても恥ずかしかった。

でもふたりの駅員さんが
丁寧に教えてくださいました。

プリペイド式のカードが
券売機に入れても戻ってしまい
困っていたのですが

駅員さんと一緒に
別のタイプの券売機に入れたら
きちんと使えました。


バスを降りるとき
乗り継ぎ券のもらい方がわからなくて
運転手さんにききました。

とても恥ずかしかった。

でも女性の運転手さんが
丁寧に教えてくださいました。

後ろで降車を待っていた方が
まごつくわたしに迷惑しては
いけないと思ったので

列から外れて最後尾につこうと
他の方が降りるのを待っていたら

初老の男性がご自身の前を譲って
列に入れてくださいました。

ここ数日のあいだに
何度も何度も
いろいろなひとに

ありがとうございます

と言いました。


三年半ぶりの
わたしの通勤風景は

そんな風に始まりました。


働けること
教えてもらえること
気遣ってもらえること

ほんとうに
ありがたいことだと
思いました。


この先仕事において
どんなに嫌なことが起こっても
どんなに辛いことが起こっても

きっとずっと
忘れません。











【テーマ・こくご】


月子、きみに
かなしみを返そう

あの日きみから
かなしみを
奪ったのはぼくだった

きみのかなしい顔をみて
ぼくがかなしむのがつらかった


月子、きみに
やさしさを返そう

あの日きみから
やさしさを
奪ったのはぼくだった

きみのやさしい微笑みが
誰かに盗まれるのがこわかった


月子、きみに
うたごえを返そう

あの日きみから
うたごえを
奪ったのはぼくだった

きみの清らかなうたごえを
誰かにきかれるのが切なかった


月子、きみは
なにひとつ持たされないまま
ずっとぼくのそばにいた

かなしみも
よろこびも
いとしさも

鏡のように反射して

月子、きみは
なにひとつ満たされないまま
ずっとぼくのそばにいた

月子、きみの
孤独を奪ったのはぼくだった



月子、きみに
こころを返そう

あの日きみから
こころを
奪ったのはぼくだった

きみと寄り添うしあわせを
なくしてしまうのがこわかった


月子、きみの
その美しいひかりを

きっと誰もが
あいしているよ