【テーマ・ひるやすみ】


どこかの誰かに届いてほしくて
当てずっぽうで手紙を出した。

宛て所に訪ね当たらず
手紙は誰にも届かなかった。

差出人不明のその手紙は
わたしの元へも戻らない。


届かないことは知っていた。
だから差出人を書かなかった。

届くことを願っていた。
だけど差出人を書かなかった。

届かずここに戻るのも
見知らぬところに届くのも

どちらもとてもこわかった。


けれど出せずにおけなかった。
だけど書かずにおけなかった。

伝えるための手紙じゃなかった。
届けるための手紙じゃなかった。


いくあてもかえる場所もない。

宛て所に訪ね当たらず
差出人不明の手紙の束。

何万通ものたとえばなし。














【テーマ・そうさく】


薄明かりのなかで
起こったことの一部始終を
ぼくはどこか離れたところで
眺めていたはずだった。

薄明かりのなかで
起こったことを一部始終
ぼくはぼくのからだで見聞きしながら

暗がりのなかで
起こったことを四六時中
ぼくはぼんやりと考えているはずだった。

ぼくはどこか離れたところで
ぼくを見つめているはずだった。

そのことに気づいたとき
ぼくは薄明かりのなかから
出られないことに気がついた。

薄明かりのなかの
左から二番目の席。

ここを立っても
ぼくは暗がりには戻れない。

ぼくは少し長居をし過ぎたんだ。

ぼくはもうこの薄明かりのなかでは
ぼくのからだが目が耳が
あんまりはっきりと在りすぎて

ぼくはもうあの暗がりのなかの 
ぼくのからだがあるかどうかさえ
問題にならないあの記憶を

いまこれから永遠に
失おうとしているんだ。

代わりに生まれた別の闇に
ぼくは覆われてしまったんだ。




《お誕生日おめでとう》

ぼくの左横で少女が笑った。

懐かしい彼女は
ぼくがその姿を見るよりも先に
たぶん姿を消してしまったんだ。

つまりぼくは
彼女の姿を見られなかったのだけれど
ぼくは彼女がぼくの左側に
座っていたとわかっていた。 

ずっと前から知っていた。

遠のいていく暗がりの記憶の代わりに
ぼくはぼくの懐かしい記憶のかけらを

たったひとつぼくの左隣に用意された
小さな椅子のうえに見出だしていた。







【テーマ・こくご】


そこはかしこ

ここはそこでなく
そこはここでない

ここはかしこ

そこはここでなく
ここはそこでない

ここはそこかしこ

そこはここにあり
ここはそこにある

ここそこかしこ
そこはかとなく

そこここかしこ

ここそこかしこ