【テーマ・ずこう】


せっかく作った紙ひこうきが
うまく飛ばないと言って
泣いていたのはいつのころかな。

そんなふうに泣かないで。
うまく作ってあげられなくて
ほんとにごめんね。

そんなふうに諦めないで。
うまく励ましてあげられなくて
ほんとにごめんね。

何度も何度も折りなおし
よれよれになった紙ひこうき
しわしわの翼を拡げて
どうか彼方まで飛んでいって

息子を笑顔にしておくれ。






「飛ばすとクルッてなるけど
羽根がじゃばらだから
どっちでも飛ぶんだよ。」

あれからわずか数年
わたしにとっては
瞬く間に過ぎたようでも

息子は涙を拭いて立ち上がり
息子は諦めずに考えつづけ

何度も何度も折りなおし
何度も何度も飛ばしてみて

重力に負けない
じゃばらの飛行機を
作り上げました。

その飛ぶ姿の美しさ。

計算のない無垢な息子の希望が
まるで計算し尽くされたような
左右対称の翼をつくりあげて

空を切るように滑空するさまは
限りなく自然体で美しかった。


「ママにひとつ作って上げる。
何色がいい?」


わたしは
赤いひこうきを
作ってもらいました。







【テーマ・ひるやすみ】







子どものころ
祖父がくれたものだと
記憶しています。

砂時計。

娘が小さいころに
欲しがったので
いまは娘のものです。

こっそり拝借しました。



この砂はいつも
この世界の重力に抗うことなく
最後の一粒に至るまで
さらさらと流れ落ちてゆきます。

ささやかな衝撃で
たやすく壊れてしまいそうな
そのからだのなかに

いつも同じ砂を湛えながら

同じときを計ることは
二度としてないというのに

これまでいくつもの5分間を
何度も何度も繰り返してきました。


ときおり
流れ落ちて減ってゆく
砂のようすが

削られてゆく自分の
寿命であるかのように見えて

最後の一粒が流れたあと
ときのなかに残された
止まったままの砂時計が

たとえわたしのいのちが
尽きようとも
ときは変わらずどこかで
流れ続けることを

教えてくれるように見えます。


わたしのいのちが
尽きたあとも

かつてわたしの
命であったその砂が

今度は上下をひっくり返して
また別のときをはかってゆきます。

わたしのいのちの誕生前
わたしは誰の砂だったのか。



5分間という
わずかなひと刻みだけを
はかるはずの砂時計は

ほんとうは永遠をはかるための
唯一の道具のように思いました。


わたしから娘へ。

一粒では点でしかない
小さな小さな砂の粒が
三次元でひっくり返り
四次元をはかる仕組み。

一粒たりとも
減りも増えもしない
閉じこめられた砂たちの

とわの流れが見えるようです。




【テーマ・ほけんたいいく】


わたしは泳ぐことができません。

小学生のとき
学校のプールで溺れそうに
なったことがあります。

溺れたわけではなくて
溺れそうな気がしたんです。

それでじたばたしているところを
クラスメートにからかわれて

「蛙のツメを飲んだ」とかで
えんがちょされてしまいました。

蛙のツメって…
おかしなこと言いますね。



そんな思い出を携えながら
久しぶりにプールに入りました。

水のなかで歩くだけでも
とても運動になるからと
勧められてやってみましたが

驚いたことに

歩けません。

ふだん何気なく歩いているというのに
水のなかに入ったとたん
どうやって歩いていたのか
わからなくなってしまい

気がつくと右手と右足が
同時に出てしまったり
水の抵抗で身体が流されて

まっすぐに進むこともできません。


右足を出すときは左手を前に
左足を出すときは右手を前に

そんなことを考えれば
考えるほど身体は混乱して
思うようになりません。

それでもしばらく
悪戦苦闘しているうちに

いつの間にか
歩けるようになりました。

気がつくと
なんにも考えず
こころは空っぽ

ただ前へ前へ
水のなかを進んでいました。

はしからはしまで
行ったり来たり
行ったり来たり。

ときを忘れて
行ったり来たり
行ったり来たり。


そして
もっと驚いたのは

水からあがったときの
身体の重さでした。

こんな苛酷な重力の世界で
わたしたちは生きていたのか。

ほんの一瞬
ほんとうにそう思いました。



ご縁で無料のチケットを
頂いたので行けたことです。

なかなか
こんな機会は今後ないと思います。

でも

いつか泳げるように
なりたいな

そう思わせてくれる
貴重な貴重な体験を
させてもらいました。