【テーマ・ほけんたいいく】


いつのころからか思い返せば
おそらくは高校生くらいの
ころからだと思います。

ある日あるとき唐突に思い立ち
部屋の模様替えをしてしまいます。

夕暮れ時にいきなり思い立つと
翌日早朝にどんな予定が
あろうとなかろうと

やらなくては気がすまないのです。


その時のパワーには
我ながら驚くべきものがあります。

タンスだろうがベッドだろうが
ひとりで動かしてしまうほど
普段では考えられない怪力なので

むかしよく母が呆れたものです。

かつて両親の持ち家に住まい
それがどれ程恵まれていたかさえ
自覚のなかったころですが

買ってもらった家具を改造したり
壁に棚を打ち付けたり
とにかくやりたい放題で

でもそうやって出来上がった
自分の部屋がどこよりもお気に入りで

その部屋を去るときも
その後、家が売られるときも
実に辛かったのだと
いまは思います。



もやもやしているとき
無心に掃除をすると
いつのまにか気持ちが
スッキリするように

不運に悩まされているとき
妙に風水を気にしたりするように

部屋とこころには
密接な関係があるように思います。


わたしはきっと
なにかを変えたいとこころが叫んだときに
模様替えの衝動が抑えられなくなるのだと
いまなら納得することができます。

今日もこんな時間まで
ひたすら家具を移動したり
不要品を処分したりしてました。

いまやらなければ
いつやるのか。

わたしがやらなければ
誰がやるのか。

そんな思いに急き立てられて

あらたに設えた空間には
子どもたちの宝物や
お気に入りの図鑑や本を
並べて飾って整理して

埃と一緒に雑念を振り払いました。



少し腰が痛むのは
寄る年波の愛嬌か
あるいは捨てられた品々の怨念か

それはわからないけれど

大型連休を前にして
いまやらねばならないほど

こころの整理が
必要だったということでしょう。


部屋の乱れはこころの乱れ。

こころに手が届かないと嘆くならば
そこにある品々に手を伸ばせばよいのです。

窓をあけて埃をはらい
鏡を磨いて好きなものを飾り

手離す雑貨を弔いながら
惜しんで捨てたらいいのです。


住所氏名は変わらなくても
大事ななにかが変わるような
気がします。







【テーマ・ずこう】


お菓子やティッシュペーパーの
空き箱が最近は竜に化けます。

立派な髭と角を持ち
長い胴体を空にくゆらせるような
日本的な龍のときもあれば

大きな翼と牙を持ち
堂々たる立ち姿で炎をはく
西洋的なドラゴンとのきもあります。


工作好きの息子の作品です。


先日、兼ねてから頼まれていた
モールを買って息子に渡しました。

さっそく出来上がった作品を
見せながら息子は
「これなんだと思う?」と
いつになく真剣な面持ちでした。

ざっくりしたモールの質感では
恐竜のようにも見えたそれを
息子は正体を明かすのが惜しいように
少しずつ説明します。

これはなにかの頭で
これはなにかのなにか。

頭ともいうけどほかのことで
体だけどおともいう。

なんだかなぞなぞのようでしたが
やっと明かしてくれた答えは

「竜頭蛇尾」。


竜の頭に蛇の尻尾。

彼ははじめて知った言葉さえも
鼻歌まじりで工作にしてしまう。

恐ろしいほど素直な表現で
感じたままをかたちにするのです。

彼が答えを明かしたあとも
まだ謎かけが続いているような
不思議な気持ちになりました。


言葉の意味を言葉で探っては
決して行き着けないどこかへ
連れていってくれるような

言葉の意味を言葉で考えない
別次元の扉を開いてくれるような

素朴なひらめきを感じましたが

毒に慣らされたわたしの思考回路には
その純度の高さは危険でもあり

なぞなぞ仕掛けに助けられて
ようやくこうしていられるわけです。


そんなわたしを息子は
知ってか知らずか

惜しげもなく作品を分解して
また別の作品にしてしまうのですから

ほんとうに
おそれいってしまいます。







【テーマ・どうとく】


なにかを訴えているひとがあって
そのひとの本意を汲むというのは
まことに至難のわざと思われます。


ひとは真意をわかってほしがる時
幾重にも衣をまとわせておかねば
伝わるものも伝わらないとばかり

丹念に真意を覆いかくしてしまう。

手土産を風呂敷から取り出すようには
あけすけには差し出してはくれない。

それでいてこちらから風呂敷を
こちらの流儀で暴こうものなら
まるで夜討ちのくせ者の扱いで

要は手を触れずに中味を見よと
無茶な注文をつけているのです。


もしくは風呂敷というよりも
金の衣に包まれているならば

絢爛な装いを誉めれば
中味を見よと怒り出し
衣を破いて裸にすれば
たちまち御用にされてしまう。


訴えを引き受けねばならぬのに
本意を汲み取らねばならぬのに

土産の中身はわからずじまい
図星をさしては命があぶない。



わかってくれと頼むひとほど
まもりも堅くて近よりがたい。

安易に解せると請け合えば
今度はこちらを信用しない。

解せぬといって遠ざかれば
追ってすがってのろい殺す。



なにかを訴えているひとがあれば
そこに立ち尽くしどこへもゆかず

そのひとの衣を脱ぎ捨て
鎧も兜も打ち捨てるまで

ただ待ち続けておりさえすれば
おのずと訴えは引き受けられて

真意があきらかになるのでしょう。