【テーマ・ひるやすみ】


ブランコの上にシーソーがあって
そのシーソーの片側に平均台があって
その平均台の上を歩いているようなものです。

どんなにバランスをとって
慎重に慎重を重ねて歩いても
その平均台は上下するシーソーの上にあり
そのシーソーは揺れ動くブランコの上です。

わたしにできるのはせいぜい
平均台から落ちぬようにすることくらいで

シーソーの勢いを抑制することも
ブランコの振れ幅を変えることも

できないのです。


けれども

平均台がシーソーに
揺すられていようがいまいが
平均台とシーソーがブランコに
揺すられていようがいまいが

平均台から落ちたらそれまでです。

平均台から落ちたのが
シーソーのせいであろうとなかろうと
ブランコのせいであろうとなかろうと

平均台から落ちたらそれまでです。


一元的なバランスの取り方では
まず間違いなく振り落とされるのに

集中すべきはただ一点しかありません。


それが個人の人生なのかもしれず

ならばブランコに揺られていても
そしてシーソーに揺られていても

一本の平均台の細い道を
二本の脚で渡り切らねばならないでしょう。

少なくとも平均台から
落ちたらそれまでなのです。

そうすべきなのではありません。
それしかできないのです。








【テーマ・どうとく】


言いたければ言えばよかろう。

胸のうちに秘めている間は
永遠に不完全と感じるのだから。

灼熱のかまどのなかで
とろけた鉄をかきまわすだけでは
誰かに触れてもらうことも
誰かと分かちあうことも叶わぬのだ。

吐き出したければ吐けばよかろう。

飛び出した鉄砲玉は
誰の目にもあきらかになって
多くの人目に触れるだろう。

いまや完全となった鉄の塊は
おまえの胸を突き破り
賛同も批判も等しく絡み取って肥大し
読むべき空気をまとって酸化し

いつかボロボロに錆びて朽ちても
それがおまえの生み出したものならば
おまえは満足なのであろう。


言いたければ言えばよかろう。
吐き出したければ吐けばよかろう。

こころのかまどがおまえの胸を焼く。
溶け出した鋼鉄がおまえの体を這う。

内に秘めたる不完全は
おまえを永遠に苦しめる。

しかしひとたび人目にさらし
冷やして固めたその鋼鉄は
おまえの望もうと望むまいと

隣人を傷つける鉄砲玉となり
自分を縛りつける足枷となり

錆びて朽ちても元には戻るまい。

それがおまえの生み出したものならば
その完全の前におまえは満足だろう。


鉄をとろかす灼熱がどこから来るのか
その灼熱を囲うかまどがなぜあるのか

鉄を固めてかたちにするのが
本当に自分の所業なのかどうか

それらおまえの本心の疑問を
すべて愚問に変えてまで

言いたいというなら言えばよかろう。
吐き出したいというなら吐けばよかろう。


無限という不完全から
有限という完全を千切り取り

錆びて朽ちるのも癒しであろう。











【テーマ・こくご】


浜辺でぼくは
波打ち際を眺めていた。

波が砂を覆っては
砂をさらってゆく。

いつのまにかぼくは
寄せては引いてく波の最中で
砂と一緒に揺れていた。

波は浜辺に打ち寄せるのに
ぼくは浜とは反対側に
すいよせられてゆく。

打ち上げられているのか
引き込まれているのか
わからなくなったころ

ぼくは海のなかにいた。

海中と海上の狭間でぼくは
息をするためもがいていた。

うねりがぼくを
吐き出しているのか
引きずり込んでいるのか

ぼくは海中と海上のどちらで
息ができるものなのか
すっかりわからなくなった。

ときおりキラリと光るのは
海のなかのさかなの群れか
それとも夜空の流れ星か

この暗闇の正体が
深海なのか宇宙なのか
わからなくなったころ

ぼくに翼があることを思い出した。

おおきく空気を吸い込んで
ちからをふりしぼり翼を拡げ
ぼくは空へと舞い上がった。

眼下に広がる青い海に
ぼくを呑んだ潮が渦になって
ぼくを弄んだ波が白く光って

全部がひとつの海だった。



あんなに必死で
息をしようとしたことが
いままでにあったろうか。

あんなに必死で
光を掴もうとしたことが
いままでにあったろうか。

ぼくに翼があることを
ぼくはいつ忘れたのだろうか。

ぼくに翼があることを
ぼくはなぜ思い出したのだろうか。

冷たい水に奪われる
体温を感じなければぼくは
ぼくに恒温を保つ能力があるのを
知ることはなかったろう。

疲れて果てて動かなくなる
からだを感じなければぼくは
ぼくにいのちの限界があることを
知ることはなかったろう。


いまぼくは
遠く離れた青い海を見下ろして
いのちの危機を免れたようでいて

本当はさみしくてたまらない。

浜辺で波を眺めていた
あのときよりもずっとずっと

ずっとさみしくてたまらない。


ぼくはぼくであることを忘れ
ぼくはぼくであることを知り
ぼくはぼくの翼をたたんだ。

重力に抗う揚力を捨てて
内包された浮力を選んだ。

ぼくのいのちの有る限り
ぼくは渦に巻かれながら
波にうねられ揺れながら

それでも浜辺で波を見ている。

寄せては引いてく波打ち際で
ぼくはぼくのいのちを見ている。