【テーマ・こくご】


不思議なものだな。

毎日おまえに会っているのに
おまえはまだわたしを知らない。

おまえの生きる世界に
わたしはまだいないからだ。

おまえの過ごす一分一秒を
わたしは見聞きしているというのに
おまえはわたしが
そばで見ていることも知らない。


おかしなものだな。

毎日おまえと話しているのに
おまえはまだわたしを知らない。

おまえがいつどこで
どんな小石にけつまずくか
わたしは知っているというのに

わたしはその小石を
どかしてやることもしない。

おまえが何に挑み破れ
どれだけ傷つくのか
わたしは知っているというのに

わたしは事の顛末を筋書き通り
見届けることしかしない。


おまえが変えられると信じる未来は
わたしには変えがたい過ぎた日々だ。

おまえがことのほか急ぐ道は
わたしが迂回した回り道だ。

おまえが忘れたいと願う過去は
わたしの現在を支えた未来だ。


さみしいものだな。

毎日おまえに会って
毎日おまえと話しているのに

おまえはたったひとりで
生きているように振る舞う。

どんなに迷って吟味しても
どんなに悩んで決断しても

おまえはわかりきった道を選び
わたしの軌跡を辿るというのに

おまえがここにくるころには
わたしはここにはいないのだ。


もどかしいものだな。

おまえは少なくとも
わたしのところまではやってくる。

なのにおまえは
雨に打たれて凍えながら
膝を擦りむき泣きながら

迷いながら苦しみながら
道なき道を歩んでくる。

おまえの行く手を阻む向かい風は
思わず漏らしたわたしのため息だ。

おまえの求めるみちしるべは
わたしの乗り損ねた列車の切符だ。

おまえの逃れる苦悩のすべては
わたしとおまえをつなぐ絆だ。


懐かしいものだな。

毎日おまえのすがたを見ている。
毎日おまえにわたしは会ってる。

いつかおまえも出会うのだろう。

おまえのまだいない世界の
過ぎ去りし日の尊いおまえに。




わたしにも待っているのだろう。
まだ見ぬ遠い日々のわたしが。

いまもそばにいるのだろう。
すべてを知っている未来のわたしが。

















【テーマ・こくご】


それを見るには
この目はあまりにも小さい

この目などで見ぬほうが
それはかえってよく見える


それを聴くには
この耳はあまりにも小さい

この耳などで聴かぬほうが
それはかえってよく聴こえる


それを語るには
言葉はあまりにも不便だ

言葉など使わぬほうが
それはかえってよく伝わる


それを感じるには
この体はあまりにも鈍い

感覚など捨てたほうが
それはかえってよくわかる


それを思うには
このこころはあまりにも狭い

いっそ思わぬほうがよほど
思いはしぜんにあふれてゆく



わたしというものが

わたしの目を失って
わたしの耳を失って
言葉というものを忘れ去り
老いて体を使い果たし
古びたこころを還したら

それは見てえくるのかな
それは聴こえてくるのかな
それは伝えられるのかな
それは感じられるのかな
それを思うことができるかな

わたしというものが
わたしでなくなったとき

それはあきらかになるのかな


わたしというものが
わたしというものでいるあいだ

それは待っていてくれるかな











【テーマ・こくご】


いまぼくの目の前で
きみが屈託なく笑う

きみの笑顔を眺めながら
ぼくは泣いているきみを
探しているんだけれど

どうしてだろう
きみはどこにもいない


いまぼくの目の前で
きみが悲しみに暮れる

きみの涙を拭いながら
ぼくは微笑んだきみを
探しているんだけれど

どうしてだろう
きみはどこにもいない


いまぼくの目の前で
きみが未来の夢を語る

きみの輝く瞳をみながら
ぼくは絶望するきみを
探しているんだけれど

どうしてだろう
きみはどこにもいない


いまぼくの目の前で
きみが恐怖に震えている

きみの肩を抱き寄せながら
ぼくは安心して眠るきみを
探しているんだけれど

どうしてだろう
きみはどこにもいない


きみはいつだって
ぼくの目の前にいるのに

ぼくはいつだって
きみを探してばかりいる

きみはいつだって
ぼくの胸のなかにいるのに

ぼくはいつだって
きみをなくしてばかりいる


ぼくの目の前のきみは誰
ぼくの胸のなかのきみは誰



ぼくの探すきみはどこ

きみの前のぼくはだれ


きみの見つめるぼくはどこ



ぼくを見つめる瞳のなかに
きみを見つめるぼくはいる?

きみを見つめる瞳のなかに
ぼくを見つめるぼくはいる?



いまぼくの目の前で
きみがぼくを見つめている

きみの瞳を見つめながら
ぼくを見つめるきみを
探しているんだけれど

どうしてだろう
きみはどこにもいない

きみを探すぼくのすがたが
きみの瞳に浮かんでいるよ


どうしてだろう
きみはどこにもいない

きみはどこにもいない