【テーマ・ひるやすみ】



観たかった映画を
観てきました。

まっすぐ家に帰るのが惜しくて

何十年も昔に
そうしていたように

寄り道をして
コーヒーを飲んでいます。

いまわたしのこころは
十代だったあのころに

限りなく近づいています。


それを
歳を重ねたわたしが観ている。



わたしとわたし
ふたりの間にある縁が
見えている気がします。

それも
はっきりと鮮やかに。


ふたりの間に紡がれた
距離のない距離のなかに

表しがたい美しさがあります。



そうして思えば

わたしとつながる
この世のすべてが

美しくないはずはないと

こころの底から
信じられて


わたしはいまに戻りそして

コーヒー店を出て
家に帰るのでしょう。



今日まで生きて
その映画を観ることができて
ほんとうに幸せです。














【テーマ・りか】


みのりの季節がやって来ました。

息子のあさがおから4代目
たくさんのたねが
青いふくろに包まれてます。

この固く結んだまるのなかで
いのちの凝縮が行われています。

除草剤がまかれてから日々
晴天と通り雨に見舞われる
慌ただしい一日のなかで

あんなに誇り高く繁っていた
緑の葉っぱたちは痩せこけてゆき

根から吸い上げる水分は
子どもたちに優先されているのが
手に取るようにわかります。

実在し襲いかかってくる
天候や人為的な害悪から
たねは当たり前に護られて

少しずつ少しずつ
かたちを整えてゆきます。

しかしどんなに護っても
ことしのあさがおが体験した
猛暑や豪雨や除草剤の

記憶はまっすぐ
たねたちのなかに流れ込みます。

誰にもとめることはできない。

いいことも悪いことも
まるめて全部がそれだからです。

「それ」ってなあに?


いまはまだ
言葉ではあらわせない
世界のひみつです。






【テーマ・こくご】


気がついたら
ぼくは燃えていた

真っ赤な炎にくるまれ
生き物の焼ける臭いがした

ぼくに火を点けた奴は誰だ
ぼくを焼き殺す犯人は誰だ

ぼくの燃えているのを
みんなが見物している

ぼくが焼けていくのを
誰も助けようとしない



そこいらじゅうの酸素を
ぜんぶ喰い尽くしたころ

ぼくは部屋の扉がかたく
閉ざされているのを見た

窒息寸前のぼくが最期に
見たものは

ぼくの遺骨を拾うぼくの姿



ぼくは残らずぼくの遺骨を
拾い上げて気がついた

ぼくに火を点けたのはぼくだ

誰も入らないよう扉を閉じて
炎が酸素をこれ以上喰わないよう
内側から鍵をかけた

燃え尽きてはじめて思い出す

犯人などどこにもいない
助けてくれるひともない

ぼくに火を点けたのはぼくだ
ぼくの遺骨を拾うのもぼくだ

そして

扉を開けておもてへ出ていくのも

ぼくなんだ