【テーマ・かていか】



ここで怖じけてはいけないとわかっていても、すくんでしまって動けない、こころが。

ということはあると思います。

そのことに苛立つと、こころとアタマの連携が乱れて、思ってもいないような行動に出るのが定石なんでしょう。

その乱れは大波小波、寄せて引いて、生活をめちゃめちゃにしていきます。

まるで泥棒に入られた後のようなお部屋を見渡して、まずは驚愕し、続いて落胆し、悲しくなって、仕方なく片付けようとしたときに、一体誰が泥棒に入ったのだと怒りを感じる。

ここで犯人探しを始めたら、怒りは永遠に続いてしまう。
だってどんなに探しても、犯人なんか見つからないから。
どこかに犯人がいるはず、いてほしい、その願望だけが浮き彫りになって、それが別の苦しみを生み、犯人探しが目的になり生き甲斐になってしまう。

部屋を片付け終わり体裁を繕っても、こころは永遠に乱れたまま。


驚きと悲しみが怒りにとって変わったとき、辛抱してもう一度お部屋を見渡せば、そこかしこに証拠が見つかる。
丁寧に検証を繰り返せば、他でもない自分の手が飾り棚をなぎ倒し、他でもない自分の足が土足で床を泥まみれにしている光景が目に浮かぶ。

泥棒に怖じけた自分が泥棒より先に、大切なものから順番にかき乱し壊していった痕跡がありありと見えてくる。

その絶望から身を守るために怒りがあり、怒りを保つために犯人という幻想がある。

なんて空しいんだろう。



ここで怖じけてはいけないという勇気が、恐怖にすくんだこころを置き去りにしてしまう。

泥棒に怯える意識がこころに鍵をかけ、出入りを不自由にしてしまう。

セキュリティという幻が偽の安心をくれるから、こころを守る術を忘れていってしまう。

置き去りにされたこころが反逆を起こしても、見ず知らずの、いるかどうかもわからない泥棒のせいにされてしまう。


むかし、わたしのなかには、門番をしているひとがいました。
そのひとはある時、なにも言わずに去っていってしまったのだけれど、それはどこか遠くにいってしまったのではなく、わたしに気づきを与えることで、わたしと同じになったから姿が見えなくなっただけなんだとわかりました。

首から下げていた鍵束をそっくりわたしに与えて、その役割を終えたのです。

わたしの部屋はすっかり荒れてしまったけれど、それは幻の犯人のせいでも、いなくなった門番のせいでもない。



だから、現実側の行動として、お片付けを頑張ろうと思います。












【テーマ・どうとく】



ひと度その人生が放浪の旅であると
あるときふと気づいたあとは

どんな固有名詞を名乗ろうと
いかに所在地を証明しようと

そのひとを特定しうるだけの
拘束力を持ちうる現象など有りはしない。

あなたの名前もわたしの名前も
あなたとわたしを区別するくらいの
ささやかな力しか持ってはいないのだ。

あなたの居場所もわたしの居場所も
ただそれだけでは何の役にも立ちはしない。

あなたもわたしも
終わりのない旅に限りある命で挑む
名もなき存在でしかあり得ないのだ。




己の存在の証明という命題から
解き放たれたときわたしたちは
永遠に孤独からも解放される。

けれども各々の個体は全体を逃れ
あなたとわたしという単位に分かれ
あえて孤独を鋭く感知することを選び

問われるべき問題から解放されることを
恐れて答えの解らぬ振りをこれからも
続けてゆくのに違いない。

固有名詞を名乗り所在地を占有し
己が個であることを証明することに
人生のおおよそを費やして過ごす。

個が個でいられなくなる
いわゆる死の瞬間の寸前まで
既知の解答を知らぬが如く

愚か者を演じて過ごすに違いない。



いのちの限りを尽くしたその時に
ようやく訪れる死の瞬間の間際まで

あなたを見つめていられるように

わたしはわたしでいたいのだ。


あなたとわたしを分かつことが
あなたを愛せる唯一の方法ならば

愚かでもいい

あなたに映る固有名詞で有り続けよう。
あなたではないわたしで有り続けよう。