【テーマ・きゅうしょく】


わたしという生物の中に
数え切れないほど沢山の
わたしではない生物がいます。

その生命体は
たぶんわたしのなかを
何度も何度も出入りして

わたしのなかにいるあいだ
わたしと一緒に生きています。


菌類です。



流行りに乗るのは苦手でしたが
豆乳と玄米だけでヨーグルトを作るという
そのシンプルな過程に
こころを揺り動かされて

本を買って試しました。

発酵過程を目の当たりにして
目からうろこが落ちる思いでした。

食糧とか食べ物とか
飼料とかエサとか

そんな風に見ていたものは
すべて生きているのでした。

わたしは常にいつ何時どんなときでも
生きているものを口にしているのでした。

生きたままのそれらを食べて
今日一日を生きたのでした。



学校で食物連鎖を習ったとき
生き物を殺して食する
罪深さから目をそらしたものでした。

殺して死なせたものを
食べて生きると思うと
自らの生きる価値を
問いたださずにはいられませんでした。

けれども

たしかに

わたしたちは
生き物を殺して食べるけれども

生きたままを食べてるとも言えます。
食べたものはわたしのなかでも
確かに生き続けて
生きたままわたしから去ってゆく。

わたしの細胞に働きかけ
内分泌系に干渉して
わたしの血液で旅をして

またいずこかへ去ってゆく。


そういう循環もあるってこと
それを知ったら
生きる価値を問いただすなんて
偉そうなこともうできません。

わたしではない生物と
これ以上ない間近な距離で
生命活動をともにする以上

手前勝手な価値観など
ほんとうにどうでもいいことです。

わたしのなかで
生きているものがある

それだけで

それだけでいいではありませんか。



一日約一食。

近頃はとても美味しく感じています。















【テーマ・ひるやすみ】


その人をその人たらしめているのは
そのひとの記憶だと思っていました。

どんな風に生まれてきて
どんな風に育ってきて
どんな風に日々を過ごし

どんな人と巡りあい
どんなことを感じて
どんなことをしてきたか

その記憶がそのひとを
その人として生かしているのだと
思っていました。


記憶を失うのは
いのちを失うも同然のこと。

流行りのドラマでも
そのようなことが言われていました。

まばたきするたびに
記憶がこぼれ落ちるようでは
生きた屍のようになってしまうし

奪われるようなかたちで
記憶を失ってしまったら
それまでの自分が
殺されてしまったように感じるでしょう。

記憶違いでそのひとが
別人のように見えてしまったり
思い出せない記憶があれば
何かが欠け落ちたような
虚無感や焦燥感を抱くこともあるでしょう。




でもね。


どうしたって忘れていってしまうんです。

だんだん思い出せなくなってしまう。

思い出そうとすれば
かろうじて思い出せるところに
点々と記憶は転がっているけれど

思い出そうとすればするほど
思い出そうとしていない時は
忘れているんだということを
痛烈に実感してしまう。

そして

自分を自分たらしめいるはずの
記憶が徐々に薄れているのに
何食わぬ顔で生きていることが

なんだか許しがたく思えてしまう。



ちょうどそれは
わたしを組み立てる細胞が
少しずつ入れ替わり

生まれたときのわたしの細胞など
ひとつたりとも残っていやしないのに

わたしは何故かわたしだということの
違和感によく似ています。


役目を終えて死んでいった細胞も
思い出されることなく消えた記憶も

過去の時間に埋没して
その姿形は失われたけれど
存在は確かにここにあって

それがわたしを
わたしでいさせてくれています。


60兆の細胞が代謝することも
忘れゆく思い出があることも

生きているものとして健全です。

健全であるときほど
壊れゆく細胞に無関心で
薄れゆく記憶に鈍感であるかもしれません。

それなのに
細胞が壊れては病気になるし
記憶を失えばいのちを失うも同然なんです。

この一見矛盾した現象に
近頃わたしはすっかりやられていて

にっちもさっちもいかないのです。



当たり前と思うことほど
当たり前ではなく

特別だと思うことほど
特段特別でもない

わたしはわたしの
手には負えない平等のうえで
均衡を破ろうとするときに生まれる
反動や抵抗に生きる実感を求めている

そんな気がして

みっともない思考で生きあえぐ
自分にすっかり落胆してしまっています。


わたしとは何か。
わたしとは誰か。

もっと素直になれたらいいのに。

生命の大きな循環のなかに
失いようのない自分が
ちゃんとあるんだってことを

もっとスーっと
受け入れられたらいいのに。

考えずにいられない頑固な自分が
ときどき、きらいです。














【テーマ・こくご】


いいじゃないかそんなこと

とかくきみはせわしない
西へいっては世話を焼き
東へいっては世話を焼く

いいじゃないかそんなこと

とかくきみはだらしない
南へいってはうそをつき
北へいってはべそをかく

いいじゃないかそんなこと

とかくきみは騒々しい
夢をみては叫び出し
夢から覚めては嘆き出す

いいじゃないかそんなこと

とかくきみは落ち着きない
天に舞い上がっては楽観し
地に這いつくばっては悲観する

いいじゃないかそんなこと

とかくきみはもったいない
生きてることを忘れては
死にゆくことを思い出す

いいじゃないかそんなこと

とかくきみはここにいる
前世のきみもここにいて
来世のきみもここにいる



いいじゃないかそんなこと

西も東も南も北も
天でも地でも夢の中でも
とかくきみはそこにいる

前世も来世も
とかくきみは生きている