竹山、長谷。
羽田下宿に住む一年先輩。
下宿とは。
食事が出る住まいだ。
今の時代は、下宿なんてそうそうなかろう。
国分も彼らの一年後輩として、そこに住んでいる。気の毒にも。
昨今口やかましい「プライベート」などという洒落た概念など、そこには皆無だ。
アダルトビデオを消音で見ていようと、彼女を部屋に連れ込んでいようと・・・・
「おい、飲むべ」
その一言で、全てが吹き飛ぶ羽田下宿。
泣く子も恐れる羽田下宿。
今後その代表者となろう人物が、竹山と長谷。
竹山・・・・・
長谷と同じく、帯広市出身。
コイツの酒のクセも、酷いものだ。
タコ、フラスコ、そして河童と・・・・・。
この先菊井が卒業してからでも、この竹山に何度も苦渋を飲まされることとなる。
口癖は「気合」。
全てが気合で片がつく。
趣味はマージャンなのだが、この後何度も「ハイロン」、「忍」という二つの雀荘で徹マンを付き合わされる。
マージャンの腕は、口癖どおり。
ほとんど振り込まない、淡々と「気合」で引きを呼ぶ。
ハネマン以上で上がった事が無いのが、竹山の凄いところ。
「気合」は伊達じゃない。
長谷・・・・
コイツはオタクだ。
コイツの自慢は、ドリカムの吉田美和と同じ高校だったということである。
もちろん、同じ時期にその高校に通ったことなどない。
にもかかわらず、何度もその自慢を聞かされた。
聞く方の身にもなって欲しい。
「はあ、すごいですね」としか、言いようがない。
彼も羽田下宿の住人よろしく、マージャンをする。
手堅い。大きく勝たないが、大きく負けない。
マージャンの最中も、オタク系のネタ話ばかり。
気を使いすぎると、この二人の誰かに振り込んでしまう。
こいつらとのマージャンには、気が抜けないのだ。
一見のんびりやの長谷であるが、サークルをまとめるのは上手い。
目立たないが、要所でピシリと言う。
オタクだと見くびっていると、どうして、なにかと組織では役に立つ男だ。
・・・・・でも、この場の言葉は「何とかなるでしょ~」か。
ならんっちゅうねん。
これから、オレは死ぬんだぞ。
確実にね。
既に小森は、殆ど死んでいる。
その左隣に、橋がいる。
コイツもオレより、二つ年上。
見た目は20歳年上と思えるくらい、老けている。
大下と同学年とは、とても思えない。
あだ名はサル又はトリ。
それ並みの知能しか持たないという意味だ。
勿論そう言われると、彼は怒った。
しかし彼の単能ぶりは、可愛さを持つほど単脳だった。
典型的なAB型。奇人か変人か。
先日、彼が夜中にいきなり我が家にやって来て、
「昨今の原発問題についてどう思う
」
と、安保闘争時代の学生のような疑問を投げかけてきた。
オレはその問いに、「ああ、どうだろうね」と、すかしっ屁とともに返した。
そのすかしっ屁が、彼の火に引火した。
その後、一時間半。原発問題について付き合わされた。
夜中なのに。寝たいのに。
奇人、変人。彼にはどちらも当てはまろう。
小樽市出身。ココまでずっと、生粋のオタリアンである。
オタリアンとは、小樽市から学校に通う人間のこと。
札幌から通う学生は、何故か何とも言われない。
このメンバーの中では、菊井のみが札幌在住の人間だった。
「そ、そうですか~」
竹山、長谷という先輩の言葉に、そうとしか答えようがなかった。
大下は、オレの存在は分っちゃあいない。
再び、放っておこう。
「お前、ココに来る前は何やってたのよ~」
と国分。
「ああ、全日プロレス見て明日に備えようかと思ってたさ」
北海道弁のやり取りが始まった。
北海道弁には、もう慣れた。
「そうか、お前は明日だったもんな~」
でもオレももう、尋常ではない。
「まあ、飲めや。石川」
と、竹山。
「まあ」の意味が分らないが、まあ飲んだ。
オレを呼んだ不幸な張本人、間波はうな垂れている。
コイツは経験上分るが、もうアウトであろう。
「いしから~おまえのれんしゅうたいどはなんら~」
菊井が、絡んできた。
「いや、僕はマジメですよ。いたって。マジで。」
「そうじゃないっしょ。こえがでてないべ」
北海道弁で、突っ込んできた。
ここまでくれば、やっかみだ。
「飲め」って、ことっしょ
「はい、スミマセン
」
一気に飲んだ。
思わず、テーブルの上にバーストしてしまった。ヤッテシマッタ・・・・・
でも、もう限界だ。
その粗相に気付いたのは、多分、菊井・竹山・長谷・国分の四人のみ。
大下は気付いたようだが、きっと覚えていないだろう。
菊井に怒られて、また一杯。
今度は、多分耐えた。
「多分」というのは、これ以後記憶が無いからだ。
気がついたら、大下家に寝てた。
当然、既に昼だ。
体育の授業など、とうに終わっている。
大下は、まだ寝ている。
ああ、またやっちまったか・・・・
後で聞いた話だが・・・・・
第一に、オレを連れて帰ったのは、大下だそうだ。
勿論、大下にはオレを連れ帰った記憶が無い。
でも大下は、ごく自然にオレをタクシーで連れ帰ったそうだ。
だからその時に生きている皆は、全員安心したそうだ。
第二に、橋の上着がなくなったそうだ。
春夏秋冬いつもジャケットを着ているが、不思議になくなったらしい。
後で調べると、彼のジャケットはゲロ袋の中に放り込まれたらしい。
帰りも、傾斜70度もあろうかという階段から転げ落ち、大怪我。
竹山の例の一言で、無事帰ったらしい。
数日後、確かに彼は無事だった。
第三に、オレの眼鏡が無い。
起きて大下家の部屋中をを探したが、一向に見つからない。
そもそも、死んだオレを、意識のない大下がタクシーに乗せた。
覚えが無いのは、無理もないことだ。
だから、起きた大下も全く記憶にないという。
大下は、オレが自分の部屋にいることすら、意味が分らないと。
タクシーの中で眼鏡が外れてしまったとしか思えないな・・・・・
・・・・・余談だが、その数ヵ月後。春の雪解けの頃。
「おい、石川。こんなものが出てきたぞ」
思い出すのに時間がかかったが、それはあのとき失くした眼鏡だった。
「どうした
どこにあったんだ
」
と聞くと・・・・
「ウチの前から出てきた・・・・・
」
その当時は、冬。積雪が公道を覆っている。
あの時オレの眼鏡は、オレの屍を運ぶ際、外れて道に落ちた。
その後、オレの眼鏡の上に雪が積もってしまったので、見当たらなくなった。
屍だったオレ、ゾンビの大下でなくとも、あの積雪では絶対に分らないだろう。
しかし、何ということであろう。
雪解けとともにオレの眼鏡が、深い雪の中から顔を出したのだ。
「おお、何たることだ~」
そのくだらない自然のメカニズムに、オレと大下は抱き合った。
何と素晴らしい自然の摂理であろうか
これを「自然の摂理」と捉えるか・・・・
ありがとう、大下。
でも、その時に田吾作村にいたメンバーに話しても、あまり感動してくれなかった・・・・
つづく。