監督:ケイト・ショートランド
原作:レイチェル・シーファー
        「暗闇のなかで」第二章ローレ


ナチスドイツ幹部一家の
敗戦直後を描いた作品



魂が
砕ける音が
聴こえる_______________



私の魂をえぐる


とんでもない作品に
出会ってしまった




⚠︎ 以下、長文ネタバレ含む










神のような存在の 
アドルフ・ヒトラー

善=ナチス そして 悪=ユダヤ 


それは
ローレ14歳の奥深くまで
染み込んでいた


当然のことである


何故なら


父親はナチス幹部

母親はたくさんの子を産む
勲章ものの
「ナチスの妻」なのだから




凌辱され
ボロボロになった母親

ヒトラーが自死
ナチスが敗戦した瞬間

それまでの立場は
ひっくり返った

ユダヤ人からも
一般市民からも
迫害を受ける立場となる


母親は抜け殻だった


ヒトラー亡き後
子供たちの存在すら
もう意味がないかのように


父親に次いで
母親も囚われの身となるため
残された全てをローレに任せ

とびきりの青い服に身を包んで
旅立つ

『誇りを失わないで』

一言残して




きっと永遠の別れになる...


泣き腫らした顔で追いかけたローレを
抱き締めてくれることはなく
行ってしまった





ほどなくして
借りていた家を追い出され

ローレは
妹、双子の弟、まだ乳飲み子の弟を連れ
900kmも離れた母方の祖母の家へ
向かうことになる

母親に渡された
食糧に替えるための宝飾品と
冷たい陶器の仔鹿を手に


ついこの間まで
お嬢ちゃま、お坊ちゃまだった
ローレたちの
サバイバルが始まる





避難所の掲示板で
ローレは
ホロコーストの実態を知る


そして


無残な遺体の山の横に立ち
写真におさまる
軍服姿の父親を見た



ローレの魂が
音を立てて
砕けてゆく





旅の途中の危機を
救ってくれるのは

黄色いワッペンを持ち
腕に識別番号を彫った
ユダヤ人のトーマス




あちこちに
遺体が横たわる中の
命懸けの旅

妹たちの命も
ローレひとりが背負っている

その使命感だけで
体は動いている




もう

地を這う動物のよう



食糧にありつけたなら
素手で貪り食べる

そこらへんで
排泄だってする

子孫を残すための
衝動だって
きっと自然なこと





いっそ
トーマスに凌辱されたなら
楽になれるのだ

やっぱりユダヤ人だと
ユダヤ人は悪だと


そして


非人道的なことを
行った父親の娘
ナチスの私を
めちゃくちゃにしてと


けれど


トーマスは
ローレの嫌がることはしない


彼は
人間だった


ローレは
父親の写真を
土に埋めて
葬った




同行の始まりは何であれ
トーマスはローレたちを
目的地まで護ろうとする


何故なら


奪い去られた家族の姿を
ローレ達に重ねてしまうから


そして


ユダヤ人に対する
惨虐な行いを知った
ナチスの子供の


魂が砕け散る音を
聴いてしまったから




唯一
トーマスはこの時
感情をあらわにし
涙を浮かべる

トーマスの抱えていたものが
解き放たれる瞬間だった

決して
観のがせない瞬間





お互い


ただ


かすかに触れる
温もりは
束の間の救いだった





双子の弟のギュンターを
死なせてしまったが

なんとか、祖母の家まで辿り着く


サバイバルで
何の役にも立たなかった
陶器の仔鹿

仲間たちが並ぶ場所へ
置いて戻してやった


途中で別れたトーマスは
本当のところ
何者なのかわからない


けれど


ローレにとって
もうそんなことは
どうでもいいことなのだ


私たちは
みんな
同じ人間


ただそれだけだ

それだけだったのに






今はもう
青い風車は無い祖母の家

部屋の壁一面に
青い風車、青い家の
タイルが貼られている

おびただしい勲章



祖母は弟が目の前のパンに
手を伸ばした時
『お行儀が悪い』と厳しく叱った

ローレはそれを合図に
もっとお行儀悪くパンを貪り

わざと倒したコップから
零れたミルクを手で掬って飲んだ





地を這って辿り着いたの

生きるために罪も犯した



勝っても負けても地獄じゃないの!



善とは何か 悪とは何か

誇りって何?



ローレは
陶器の置物を
次々に砕く

そして最後に

体温を知らない
哀れな仔鹿を

思いっきり踏んで
砕いた



900kmの旅の終着点は
これ以外、他にあり得ない



「さよなら」なんて綺麗過ぎる


「糞食らえ!」だ



ローレの瞳は救いようもなく哀しい


けれどそこには


見落としそうなほど

小さな小さな
新しい扉が

映っているような気がした




抽象的な
表現の多い作品

好き嫌いは
分かれそうな作品

私は
この作品に
出会えたことが
嬉しい

多方面を
深くえぐる

お見事な作品