はじめての方、ようこそ。再来、応援してくださっている方にありがとうございます。ハクジュと申します。

私の記事の紹介です。内容の振れ幅が大きいので、ご興味を持たれた方はまずこちらをどうぞ。

前回までのあらすじ。

ーー僕はシンデレラ、二十歳。継母と義理の姉達の性奴隷になって暮らしていた。ある時、魔法使いのメノアプトさんに助けられ、お城の舞踏会に出席することになった。

お城に着くとカレン姫様といいムードになった。でも直後にパンドラ女王様のパワハラに遭ってしまい、彼女と同じベッドで寝こけてしまったため、舞踏会も欠席してしまうという、踏んだり蹴ったりの展開に。

女王様はパートナーより政治をとった、寂しい人だったーー。

詳しくご覧になる方はこちら。

続編は以下。

[シンデレラ③]

僕はパンドラ様の寝室に戻った。彼女がシャワーを使っていたので、バスルームから出てくるのを待って言った。
「僕、弟になります!」
彼女はバスローブ一枚をまとって、タオルで髪の毛を拭きながら、かったるそうだった。
「そんなに毎日出来ないよ」
「ベッドから離れたこと考えてください」

彼女は怪訝そうだった。
「弟って、何してくれるの」
「服着てください」
「はいはい」
今更だけど、恥じらいもへったくれもない関係になってしまった。彼女が着替えたあと、僕は言った。
「あなたの代わりにジェンダーやります」
パンドラ様はほとんど相手にしてくれず、投げやりに言った。
「じゃあ、マルゲリータ作ってよ」
「おやすいご用!」
僕は厨房まで走って行って、使用人に材料を借りた。料理ならばお手のもの。熱々のピザを作って彼女の寝室に届けた。手頃なテーブル席もあった。
「一緒に朝食とっていいですか?」
「まあいいでしょう」
僕たちは席についた。彼女はピザに驚いていたけど、食べてくれた。食後、僕は尋ねた。
「美味しかった?」
彼女はツンツン威勢を張っていたが、一方で変にどもり始めた。
「じゃあ膝枕と耳掻きしてよ」
「おやすいご用!」
終わると彼女は元気がなくなっていた。
「どうしたの」
彼女はうつむいた。
「じゃあ、三つ編みしてよ」
元気がないんじゃない。僕は彼女がしおらしくなってしまったことに気がついた。
「おやすいご用!」
僕は彼女を鏡の前の席に座らせて、小道具の準備に走った。そのあと彼女の髪の毛のセットを開始した。三つ編みだけなんて面白くない。僕は編み込みも出来ちゃうよ。

彼女は黙って鏡を見つめていた。彼女の右目から、涙が一粒こぼれた。
「痛かった?」
「いいえ。私、編み込みも三つ編みもしてもらったことが無いの」
彼女はあまり感情的に見えなかった。鏡よりももっと遠くの他人に、打ち明けているような目をしていた。僕は尋ねた。
「ご両親は」
「私を捨てていった」
「乳母と侍女は」
「政敵がつけなかった。一人で身の回りの事覚えて、一人で勉強して、一人でのしあがって来たの」
僕は手を止めて、鏡の中の少女に言った。
「つらかったね」
少女はすぐに見えなくなったけど、僕は女王の小さな世界を見た気がした。

「パンドラ、部分的におさげを下ろしたいんだ。髪が長いから立ってくれるかい?」
彼女は言う通りにしてくれた。僕は使わない座席を脇によけて、彼女の毛先に飾り紐と宝石を散りばめた。ーー終わった。
「できたよ。すごくきれいだ」
彼女は吸い込まれるように鏡を見つめ、向こう側の誰かと声なき声で語り続けていた。最後に唇が動いた。
「あなた、まだ私のおでこにキスできる?」
「できるよ? しようか」
間が開いた。
「駄目」彼女の目からせきをきったように涙が溢れた。彼女は両手で顔を覆った。「駄目」肩が震えていた。
「ごめんなさい、もう性奴隷にしない。あなたにはカレンをよこす。あの子とてもいい子なの」
「でも、あなたのことほっておけないよ」
パンドラは顔をあげてくれなかった。
「いいの。一人でいいの。優しくしないで。部屋から出ていって。代わりにカレンをよこす」
「パンドラ」
僕は彼女を一人の女性として呼び捨てにしてるんじゃない。どうしても小さな子に見えてしまうんだ。

僕は彼女を抱きしめた。片手でおでこを探ったけれど、彼女は僕の胸の中に深く頭をうずめてしまった。
「パンドラ」
「シンデレラーーいいえ、カレン」
「えっ?」
パンドラは僕の胸をどんと突き放した。そしてあさっての方を向き、取り乱したかのように叫んだ。
「カレン! カレン! すぐ来て。何をやってるの。カレン、早く」
「女王陛下!」
阿吽の呼吸でカレン様の声がした。彼女が寝室に飛び込んで来る。その刹那、僕の目の前でパンドラは光の柱になってはじけた。

いや、柱じゃない。光る巨大な東洋の龍だ。城全体が唸って震えあがった。龍が天井を突き破って、上へ上へと昇ってゆく。体長も胴体もどんどん膨張してゆく様は、滝の逆流を見ているようだ。

天井のなくなった部屋は、七億の満月を集めたかのような光の洪水で溢れた。僕は声を張り上げた。「パンドラ、そのままでいいんだよ」

「陛下すてき!」
「でしょ?」
「えっ?」
僕は女性二人のやりとりの声に面食らった。気がつくと光の洪水はなくなっていた。天井も元通り。カレン様は何かに胸を撫で下ろしている様子。
「びっくりしました。おかげんでも悪くなったのかと思って」
パンドラ様は大人の微笑を浮かべて立っていた。跡形の涙も無かった。
「いいえ、早く見せたくてたまらなかったの。Jr.様は編み込みが出来るの。凄いでしょ」
パンドラ様が華麗にくるりと回転して見せると、カレン様は手を叩いてほころんだ。
「とってもお似合いです」
パンドラ様は上機嫌だ。
「Jr.様にはお世話になりっぱなしでした。私はこの髪型で城内を自慢して歩くから、カレンは彼を休ませてくれませんか?」
「お任せください。では私達はこれにて」カレンが僕の手を引いた。「シンデレラ様、こちらです。本当に素晴らしい腕をお持ちですね」
僕は訳がわからなくて尋ねた。
「カレン様、昇龍を見ましたね?」
「いいえ? お疲れですね。すぐお茶をご用意いたします」
ーー僕はそれきりパンドラ様に会えなかった。

僕は魔法使いのメノさんの段取りで家に帰らなくて良くなり、カレンと仲よくなって三年後に結婚した。その年、僕はようやく城内でパンドラ様とすれ違うことができた。
「パンドラ様」
「あんたなんか知らないよ」
「でも、いつまでも弟です」
彼女が振り返った。一瞬不敵に笑う。修羅のように猛々しいのに、蛇使いのように艶っぽくも見えた。そしてガラスのヒールを高鳴らせ、去って行ってしまった。

(「シンデレラ」終わり)

[後書き]

三回の連載に初挑戦しました。大体の骨組みは出来ていたのですが、連載中に予定変更と大幅加筆が発生しました。それであわててしまい、初めて作家さんの置かれている境遇がわかりました。勉強になりました。

失礼いたします。ご覧くださった方に感謝。