秀島はただ平家と源氏の縁を作り五位になれる好機を開きたかっただけだ。子どもたちが目をつけられるなどと想像もしなかった。
六衛府に出仕しまたも源氏一族、源義朝が不満をいだいていると聞き伝わって来た。またとりかへばやの三巻を写した者の噂が耳に入って来た。女が男装をしたまま正室を迎えたという話だ。驚いて秀島はその三巻を写した者を探し当て聞きに行った。
「右衛門佐に写し書きを頼まれた者か?」
「そうだが」
相手は怪訝な顔をした。
「われも右衛門佐に頼まれて一巻を書き写したのだ」
「おおそうか」
男から怪訝な表情が消えた。
「男装した姫が正室を迎えたそうだが」
「そうよ。だが姫ゆえに床入れはしない。嫌われたと思った正室が男装の姫の同僚、宗相中将と通じてしまったのよ。夫婦は破たん。男装の姫も宗相中将に女だと見破られて身ごもってしまった」
「ええっ」
秀島は大きな声を出した。
とんでもない展開だと秀島は卯月、羽月たちのことを思い震え上がった。
元の姿で家で過ごしている卯月と羽月は仕えている時は楽しかったと話していた。
「蹴鞠も上手くなったし、弓も的に当たるようになった。馬の綱も上手くいくそうだったのに」
羽月は残念がった。
「一の姫もやさしくきれいな貝合わせの貝もたくさん見れた。衣も家と違い豪華だった」
卯月は懐かしんだ。
「でも妾は嫌だし、なれない」
「男だもの当たり前」
当然と羽月が言葉を返した。