卯月が仕える平清明で七草がゆの儀も終わると一の姫の裳着の日をいつにするか陰陽師を呼んで協議をはじめた。一の姫はゆううつそうな顔をしている。
「羽月の家では裳着の話は出ないの」
一の姫が聞いてきた。
「十一ですから」
卯月は慎重にこたえた。
「一つしか違わないのに」
「裳着がそんなに嫌なのですか」
「そうよ。裳着が終われば婿の話よ。まだ婿なんて要らない」
一の姫はむすっとした顔をして火桶に手をかざした。
一の姫の裳着の衣も新調するために平清明の邸には見たことの無い人が出入りしていた。
裳着用の布が届き邸にいる女人たちで縫うことになった。晴れ着ゆえに子どもの卯月ははぶかれ、その代わり違う役割を与えられた。厨(くりや)にて食事の用意を手伝うことだった。井戸から水を運んできた者は下働きの者ではなく平清明の兄弟の息子だった。
「どうして水くみを」
卯月は聞いた。
「親について来たのはいいけれど、暇でね」
「はあ」
「そちは一の姫のおつきの者だろ」
「はい」
「一の姫が婿を取ったらそちはどうなる」
「辞めるか二の姫のおつきに」
卯月にも先はわからない。
「どうだわれの妾(しょう)にならぬか」
「はあ?」
卯月は目いっぱい目を開けて十七、十八くらいの若者の顔を見た。