秀島の傷が治るころにはとりかへばや物語の一巻は写し書きを終え、子どもたちも男物、女物の衣に慣れていた。羽月には小水をもよおした時には使いを頼まれたふりをしてその場を離れ、人に見られぬのようにしよと言い聞かせた。羽月ははいはいと頷いた。
秀島は文を見なおして
「これなら字が汚いと怒られることもあるまい」
一人頷いた。
少々痛む足で六衛府に巻物と書いた紙を持って出かけた。
右衛門佐を探しているとまだ出て来ていないと言われた。
「右衛門大尉、本当に治ったのですか」
少し足を引きずる秀島に言った。
「棒の支えがなくても歩けるようにはなった」
秀島はこたえた。
「おお、右衛門大尉治ったか」
右衛門佐が秀島を見つけ声をかけた。
「棒の支えはなくても歩けるようになったと今こやつにも話していたところです」
「どれ歩いてみろ」
右衛門佐に言われ秀島は歩いた。
「その足では長く歩けないし立ってはおれないだろう。矢を作る所で人がほしいと言っていた。そこに行ってくれ。そうだな五日ほどでどうだ。走れなくてもいいがもう少し楽に歩けないとな」
右衛門佐が言う。
「わかりました。右衛門佐。頼まれた写し書きです」
「おお、書き写し終えたか。待っていたのよ」
右衛門佐の顔に笑みが広がった。
「右衛門佐。子どもたちを奉仕に出させたいのですが」
秀島は声をひそめ聞いた。
「長く休んで生活が苦しいか。この書き写しの礼はそのうちな。矢の所へ行けば平、源筋から、つまり平清盛、源義朝は浮かれているから人をやとうと言う話があるかもしれん。期待は出来ないが聞いてみるがよい」
右衛門佐の頼りない情報だった。