明治天皇御製

 鏡にはうつらぬひとのまごころも 

                さやかに見ゆる水茎のあと

   昭憲皇太后御歌

 とる筆のあとはづかしと思うかな 

                 心のうつるものとききては

 

この二首は戦前の書道教育、教師用教科書の冒頭に載せてある御歌である。

 

確かに昔は自分の字が下手であることが恥ずかしいという心があった。その恥ずかしさは一人自分だけではなく、一般家庭に在って、きちんとした教育をさせていない両親に対しての恥をかかせることでもあった。「親に孝」という思想が道徳となっていた時代である。

 この教科書に示されている言葉で「芸能科の指導においては技巧に流れず精神の訓練を重んぜねばならない」(中略)「本来精神は技術を通してのみ磨かれ、技術は精神によってのみ輝くものである」(中略)「精神の訓練は、修錬の過程においてこそ行われる」

 

これ等の言葉の中に、現在われわれの呼吸書法の実践が、常に行っている書法の意味が現れていることに気付いて嬉しくなった。ここでいう精神とは心・魂の意味で、無心に書く「いろは・ひふみ」の言霊としての文字を拓し出す、宇宙空間に充満し存在する言霊という波動の形=仮名=神名(かな)を、紙=神の面に線を描きつつ現象化させていく書法は、書道の歴史上存在しなかったのだ。

これは宇宙空間に無限に存在する言霊波動との共鳴共振であり、言霊を神の波動神の意志と考えれば、まさに宇宙と一体になっていることを自覚する書法である。

 

そして技術的に言えば、これまで癖のついていた文字の形を整え、清らかな線質に変える実践である。「文字が変わると運命が変わる」と筆跡鑑定の第一人者森岡恒舟先生の言葉である。

呼吸書法を修錬すれば当然魂が清まり、人格が高まり、人との交流するレベルが変わる。運命が変わるという言葉の意味が納得である。

 

今年令和三年が大きく人生の転換となって、飛翔される会員諸氏と、これからの道のお供を、ぜひご一緒にさせて頂きたいと願っている。

本年も良きご教導を賜りたく、宜しくお願いいたします。     山本光輝