音楽用語に「倚音」というものがあります。

「いおん」と読みます。

 

以下は「倚音」の説明です。

なるべくわかりやすく書いたつもりですが

飛ばして読んでもらってかまいません。

 

例えば、「ドミソ」の和音にメロディを重ねる時、

和音の構成音(和声音)つまり「ド」「ミ」「ソ」をメロディに使うと

当たり前ですが、きれいな響きがします。

でも、例えば「ドミソ」の和音を鳴らしながら

「ドレミファソ」と歌っても何ら違和感はありません。

この場合、「レ」「ファ」は

「非和声音」と言い、

それを使うことにより、

本当なら不協和音になるはずですが、

通り過ぎることで(「経過音」と言う)

違和感を感じないのです。

で、通常、拍の頭に和声音(この場合ドミソのいずれか)が来るからこそ、

違和感を感じないのですが

拍の頭に非和声音、

つまり不協和音になってしまう音を使うことがあります。

ただし、次に来る和声音の上下隣の音です。

この非和声音を「倚音」と言うのです。

ちょっとした違和感を楽しむ

(不協和音から協和音に解決するのを楽しむ)

そんな感じの洒落れたメロディの作り方です。

もともとは装飾音として慣例的に使われていましたが・・

とか言い出すと長くなるので

やめときますね。 

 

代表例がこちら。

 モーツァルトの通称「きらきら星変奏曲」第一変奏

 

前振りが大変長くなりましたが、

ここからが本題。

 

音楽の話ではないの。

漢字の話。

 

「倚音」の「倚」という漢字を

初めて見たときに、

たぶん つくりが「奇」なのに

「い」と読むことにまず、

へー、だったのだと思います。

他にこの字を使う熟語ってあるのかしら?

音楽のこの言葉のためだけの字ではなかろうか、

と思いながらも調べることはせず、

放置したまま今の今まで40年。

 

先日のことでした。

東京の仏像を巡る番組を見ていたら

出てきたのです。

この「倚」という文字が。

椅子に腰かけている仏像のことを

「倚像」と言うのだと!

 

あっ!倚音の「倚」だ~!

「倚音」以外で初めて見たよ~!

とびっくりでした。

でも、「椅子」の「椅」の字と部首が違うだけではないですか。

なぜ今まで気づかない?

ああ、そうか、

これは「座る」という意味?

なーるほど、

お隣の音に腰かける、みたいな意味だったのかあ・・・

と勝手に解釈。

 

そもそも、「椅子」と書かれるようになったのは

鎌倉時代からだそうで、

その前は「倚子」と書いて「いし」と呼んでいたそうです。

で、さすがに今回は

漢和辞典を開きました。

 

まず、読み方 「イ」 「よ-る」

あ! 「寄る」もつくりは「奇」だ!

意味 ①よる。よりかかる。もたれかかる。例 倚門

    ②たのむ。たよる。すがる。 

  【倚門の望】⦅「戦国策」の言葉。母が門によりかかって子の帰りを待ちわびる意から⦆

    母と子の情愛が深いこと。

 

おおっと、故事成語にあるのですね。

やっぱり辞書で調べるって大事ねー

と、最近すぐググってしまう自分を反省。

 

そんなこんなで

「倚音」という言葉を知ってからおよそ四十年、

よりかかっている音、

という意味を初めて知った次第です。

 

にしても、

ヨーロッパの音楽の言葉を

よくぞ日本人は漢字で表してくれました。

シンフォニー→交響曲

コンチェルト→協奏曲

ワルツ→円舞曲 などなどなどなど、

それは沢山あります。

「倚音」を勉強する辺りで出てくるのが

「経過音」「掛留音」「刺繍音」といった言葉ですが、

漢字のおかげでイメージできるのは

とてもありがたいことです。

まあ、「倚」の字については

何も知らなかったわけですが、

そのインパクトの強さのおかげで

どういうものであるかを覚えることができたという

特殊な例でした。

 

なんだか、

自分の不勉強を露呈しただけになってしまったような

気がしないでもありませんが、

ま、一生勉強、

ということで。

(´ε`;)