ファンクラブに入ると、会報や活動スケジュールが送られて来た。
すぐに行けそうなイベントがある。
でもまだ行く気にならない。
入会前ですら行く気にならなかった。
いや、本当は行きたくないはずがない、推しなんだから。
ナマの方がいいのはわかり切ったことだから。
なのに何をもったいつけてるんだろう。
実は気後れしているのだ。
推しはデビュー20年を超えている。
長く見守り応援して来たファンもたくさんいるだろう。
対してこちらは新参者だ。
今ごろ来たの?
今まで何してたの?
なんて思われるんじゃないかという、完全被害妄想に陥っているのだった。
自然のまま心のままに、自分なりのペースで20年のブランクを挽回してきた。
ゆっくり追いついて行こうと。
まだコンサートに行く気にならないということは、つまり、まだ呼ばれていないのだと解釈していた。
「その時」は突如訪れる。
スケジュール表にはない、ファンクラブ会員限定のライブ開催の知らせに初めて心が動く。
ライブの日までの10日あまりはジェットコースターに乗っているような日々だった。
当日は息も絶え絶えに、しにそうになって出掛けるのではないかと思われた。
こんな思いは、初めての今回限りにしたい。
ライブはコロナ禍と変わらない感染症対策の下、開催された。
最後は全員とエアハイタッチで終了したので、来場者との交流のようなものはないのだと思い込んだ。
出入口に近い席だったので1、2番目に会場を出た。
帰ろうと階段を昇りきった時、そこに推しの顔を見る。
かつて夢で見たシチュエーションではないか!
次の瞬間、アタマが飛ぶ🤯
気がついた時は推しの前から数歩行き過ぎていた。
引き返してお話しする。
自分の顔を凝視しておいて、そのままフッと過ぎ去ってしまうやつ、過ぎ去ったと思ったら戻って来るやつ。
推しの前でやらかしてしまった感が、話せた喜びをジワジワと上回り始めた。
それにしてもライブは、ずっと聴いていたい、ずっと見ていたいものだった。
初ライブ鑑賞の記念に自分でセットリストをメモろうとしたけれど、紙がない。
仕方ないので手のひらに書く。
結局片手には書ききれず、入場券の余白に書く。
タイトルのわからない曲は歌詞の一部を書いておき、帰宅後に復習する。
振付けのある曲は、その振付けをマスターできていなくて、不動で聴いているしかなかった。
もっと多くのオリジナル曲、カバー曲に追いついていないと、いざコンサートやライブでもったいないことになる。
そして紙類は必須など、初めてのライブで教訓も得た。
もうジェットコースターはないだろう。
誰もが最初は「初めて」なのだから。