廊下の突き当たりがトイレのようだ。
「どうだ?」
「あぁ、よく切れる包丁になった。」
「今日の団体さん、SNSでここに来たようだな。」
「便利な世の中になったなぁ、
これでテレビで放送されりゃ、
この旅館も安泰だな。」
「もっと肉が欲しい。
団体さんの肉だ。
もっともっとだ、若い柔らかい肉が欲しい。
松の間は老夫婦だったな。」
「明日は若いタレントが来る。」
厨房から漏れるのは明かりだけではなかった。
料理人の二人の会話だ。
あと数歩でトイレに行けるのだが、監督は厨房の手前で立ちすくんでしまった。
「そっちのナタも研いでくれ、忙しくなるぞ。
俺は骨を叩き割ることにする。」
《ボギッ、グシャ》
骨の砕ける音だ。
監督は、先週放送の山姥(やまんば)を思い出す。
「大変だ、早く知らせないと。」
踵を返すと
ガラガラと厨房の戸が開いた。
「イギッ」
監督は振り返ることができない。