V・S(19) | クーカーの 笑説

クーカーの 笑説

コメディ小説を書いてます。

小説ほど難しくなく
コントほど面白くない
クーカーの笑説
1ページ1分くらいです。
サクサクと読んでくださいませ。

≪グワッ≫
大きな口は、診察台の椅子ごと横に噛みついた。
右に上顎、左に下顎と舌が見える。

僕は椅子の上で、身を細くしながら怪獣の熱い吐息を浴びせられている。

≪ブシャ、ギギギシ≫
診察台が左右から挟まれ、幅が狭くなる。

『ヘィ、マンスター!
     カモーン!』
先生はモップを持ってきて
柄の先で怪獣の目玉を突いた。

≪ギェ≫
怪獣は まばたきして診察台から口を離す。

今のうちに、
だめだ、、
診察台の両側が盛り上がって、その隙間にスッポリ入ってしまった。
もがいても出られない。

≪ケラケラケカケカケカ≫
怪獣は、喉から威嚇音を出して先生に頭を向けた。

『get out!』
先生は娘の背中をドアの方に押してから、怪獣の目玉と僕を交互に見ている。

僕は、
抜けられない
と先生にジェスチャーを送る。

ローレンさんは廊下に出られるドアに走る。

≪キィイ!≫
鳥のような、鉄をひっかくような怪獣の声。

先生が壁際でモップを振り上げると、

≪ボゴボホ≫
その壁から
巨大な鳥の足が穴を開けて出てきた。

先生はその足に突き飛ばされ、反対の壁までふっ飛んだ。

≪ツッツ、ツッツ、ツツッツ≫
鳥の足が爪の音を床にたてながら、小刻みに足を伸ばしてくる。

ローレンさんがドアを内側に引いた。
その何センチか背中を反らした時、

『ああっーーーっ』

鳥の足に捕まってしまった。

その足が何度か娘を掴み直して、グッと三本指に力を込める。

それからは一瞬だった。
その足とローレンさんは壁に吸い込まれるように消え、悲鳴だけを残した。

あの頭も抜かれて、壁に大きな二つの穴がある。



居酒屋の縄のれん みたいにツタが穴の向こうに垂れ下がる。


壁の砂ぼこりの中から先生が霞んで見えてきた。
『ローレン?』
先生は額を押さえながら娘を探す。


≪クァ、クァ≫
遠くで鳴き声がしている。

僕の正面の大穴から空が見えた。

一匹の怪鳥が飛んでいる。

「オーマイガァ。
      ユウシ・・・・」
(ユウシ。娘を取り戻してくれ。)
字幕

「そんなこと言ったって・・」
動けない。

『ユウシ、プリーズ。』
先生はヨロヨロしながら診察台の横に来ると、僕を挟んでいるひじ掛けの横にある赤いスイッチを押した。

そして天井を見上げる先生。