「ずいぶんと傷だらけになったな。」
朝日にキラッと鈍く光るそれをシフトレバーに通した。
スタートをタップしてから配達時刻表が進んでいる。
もう予定より4分のロスタイムだ。
会社の敷地から道路に出て、一件目の配達先を目指す。
その頃、金髪兄さんは食材のカットに入り、じいさんシェフも忙しく調理をしている。
下ごしらえを終えたものからケースに入れると、それをキャスターの付いたワゴンに装填する兄さんシェフ。
釣り銭がセットされているマイクロレジを抱えるとワゴンと共に軽トラに向かった。
プロパンガス、食材、レジ。
コンテナのメーター類を確認して乗り込んだ。
「レッドベレー ツー。定時に発進。」
じいさんがセルを回した。
「レフトオーライ!」
助手席から声をかける兄さん。
「どけどけぃっ!」
突然右側から猛スピードの自転車が飛び出してきたのだ。
じいさんは急ブレーキを踏む。
「危なかった。
おい、大丈夫だったか?」
「ええ。
それにしても、ずいぶん高齢者に見えたのですが。」
兄さんはコンテナを気にしながら答えた。
「最近の高齢者は元気だからな。
電動自転車も凶器だな。」
ハンドルを持ち直し、入念に左右を確認するじいさんシェフ。
「元気。
そうですけど少し気にかかるんすよ。
高齢者の犯罪がやたら増えたらしいっす。
この町。」
「うーん。
それは私も気になっていた。
モラルとかがなくなった気がする。」
コンテナ4号を載せた軽トラを目的地に走らせた。