河面に水柱が立った。
「ぅ、うわぁーーー!」
ジャケットの内ポケットから携帯電話が滑り落ちたのだ。
「ケータイ落とした!
どうしよっ。
警察だ、警察にお願いしよう。
‥‥あれ?‥‥あれ?」
内ポケットを探すどうしょうもない酔っぱらい。
「ダンナさん、どうかしました?」
そこにたまたま警察官がパトロールしていた。
「わ、おまわりさんがいた。」
警察官を見て驚く怪しい酔っぱらい。
「ちょっとお話ししましょうか、座って下さい。」
「俺、いや私。
通報しました‥‥か?ウヒィ」
「通報するところだったのですね?
事件ですか?
ひったくりとか?」
「えぇ、自殺ですよ。自殺。」
「自殺!
至急至急。応援願いたい。」
無線を入れる警察官。
「早く助けないと、アイツとは長い付き合いなんでふ、おまわりさん。」
欄干の外を指す。
「飛び降りっ!
どこですか!」
警察官が河面を覗く。
「こっち、もっとこっち、そこそこ。」
座りながら河面を指すが指先が定まらない。
「いませんよ、誰も。」
ライトを照らす。
「いるでしょう、さっき上着から飛び込んだんたから。
ケータイ。」
「ケータイ?携帯電話?」
「そお、ガラケー。
青いの。
パッカって開くの。」
両手でパカパカ再現する。
「ずいぶんできあがってますね。
ちょっと交番まで行きましょう。」
警察官が荒俣の腕を持つ。
「ダメだ。
あの軟弱野郎を助けるんだ!」
「もう、ケータイは朝お探しなられて、」
「アイツが腐ってしまう。
アイツは衝撃に耐えられないんだよぉ。
俺はアイツに助けられたんだぁ、馬鹿。」
涙ぐむ荒俣。
「残念でしたねぇ、ケータイ。」