彼女はスマホをしまってから言った。
「こ、このバスは!」
路線バスではない。
さっき追い越していったコミュニティバスのようだ。
行先案内の表示はまだ遠くてわからない。
すぐにバス停の路線表を見る。
コミュニティバスはここには止まらずこの先の
郵便局前に止まる。
赤文字で
コミュニティバスは停まりません
とまで書いてある。
「やっぱりおじさんの勘違いですよ。
あのバスは駅前行きです。」
「そうですか、ごめんなさいね。」
行先が読めたの?あんな遠くて。
若いって素晴らしい。
空き缶を捨てる所が無く、ポケットに入れる。
「えっ?」
彼女が驚いている。
「どうしました?」
「運転手の‥」
言いかけた時にバスがふらついた。
≪ブゴッ≫
突然 道沿いのブロック塀にぶつかった。
「危ないっ!」
荒俣は彼女の前に出て、彼女の両肩に手をかけてバスと反対方向へ押した。
「キャア!」
「逃げて、早く!」
さっき見えた映像と重なっていく。
≪ギャーーー≫
≪ゥガァッ≫
バスから悲鳴が聞こえる。
≪ボゴボゴボゴボゴ≫
パンクしたタイヤの音だ。
近い!
「駄目かっ!」
彼女の上に被さる荒俣。
バスはベンチを弾き飛ばした。
≪ダフッ≫
それは荒俣の後頭部へ落ちてきた。
「ぎっっ、あっ、‥‥」
「え!おじさん?
はぁっ!!
キャアーーー」
彼女もそのバスを避けることはできなかった。
数十分後
手術台の上に荒俣はいた。
「こちらの方は頭蓋骨陥没、女性をかばったと思われます。
お二人とも残念です。
15時59分
ご臨終です。‥合掌。」