橋のランカンから身を乗り出して下を見る。
真っ暗だ。
川からここまでの高さはどれくらいだったろう。
思い返せば、下の人間が豆粒に見えるくらいだった。
10階建てのビルくらいだ。
絶望的だ。
下を照らすペンライトなんか役に立たない。
そうだコフィだ。
アイツは暗闇で俺を見ていたじゃないか。
すでにコフィは身を乗り出していた。
「コフィ!見えるかっ」
「いいえ。姿がありません。」
コフィの足元に靴がある。
靴の中には手紙。
事故じゃない。
ヤバい展開だ。
「コフィ。
もっとよく探してくれ。
今、救急車を呼ぶ」
コフィは、かなり身を乗り出して探しているが俺も焦っている。
「も、も、も、もしもし。」
「救急です。」
「蟹沢川の新蟹沢橋です。」
「男性が…落ちました。」
「見えません。」
「はい。ここにいます。」
119番。
オペレーターの質問に答えた。
「いました。
水中から頭が出ました。」
コフィ良くやった。
しかし、下に行くには。
かなり先の道から河原に降りていくしかない。
「コフィ。運転できるか!」
アイツは、この前、
運転しましょうか、
なんて言っていた。
「いえ。
できますけど、これで行きます。
時間がありません。」
何をするんだコフィ
ピットケースに乗り込んでフタを閉めた。
ピットケースが走りだしだ。
バックしてから助走をつける。
ギューン
モーター音を響かせて急加速
縁石の寸前で前タイヤを収納した。
ケースの前面下部を縁石にぶつけると火花が散る。
そしてピットケースは跳ね上がってランカンを越えて空中へ
「はっ!コフィ。」
ピットケースが暗闇に呑まれて、すぐに水の跳ねる音。
川に着水したのだろう。