ネットを片付ける。
付属ポーチにしまったキャップを双眼鏡に被せると、早足で公園を出た。
ここからだとバスがある。
公園前のバス停。
服の葉っぱを払っているところにバスが来た。
バスの蛍光灯で窓に顔が写るほど暗くなっている。
大学病院前で降りる。
面会時間ギリギリだ。
三階へ。
また病室が変わっていた。
四階へ。
山中 清悟
有った。ここだ。
先輩はベッドに寝ている。
「お。久しぶりだな。」
わざわざ身体を起こしてくれた。
「先輩。
ご無沙汰してます。
今日のはぎ沼の映像です。」
SDカードを渡す。
「ありがとう。
どれどれ‥マガモちゃんは、と」
鳥好きの先輩。
ノートパソコンにカードをセット。
先輩は事故で車椅子生活だ。
バードウォッチングも気軽に行けなくなり双眼鏡を私に譲った。
その恩返しにと、たまに映像を撮り、こうしてSDカードで持ち込んでいる。
「……ん。……え?」
珍しい鳥でも居たかな。
私には全て同じカモに見えるが。
「なぁ。
お前、テキトーすぎない?」
「え?」
クレームか。
「どの鳥を狙ってるの?
なんか、見づらいよ。
せっかく撮ってきてもらって言いたくないけどさ。
お前ちゃんと双眼鏡の手入れしてる?
レンズもヤバいよ。」
「手入れ?」
「おーぃ。
ポーチに有ったろ。
レンズ拭きとか。」
「すみません。」
ポーチに?
これキャップ入れじゃなかったのか。
「これは?」
違うファイルをクリック
《サク、サク》
「早くいきなよ」
《ササササ》
《ザッパァン》
何見てんの?
あ。…ヤバい!
「違うんです!先輩。
これは違うんです。」
「彼、溺れてないか?」
「え。面白いですよね。
はぎ沼で偶然撮れたんです。」
「双眼鏡。…返してくれないか。」
え。
先輩が涙を浮かべてる。