郵便局にお金をおろしにいく。
そう言って午後3時前、母は出掛けた。
郵便局までは私の足なら、10分もかからない場所にある。
たいがい郵便局のあと、ドラッグストアかコンビニで買い物をする母。
ほとんど外出しない母にとっては恐らく楽しみでもあるのだと思う。
いつもならせいぜい一時間もあれば、帰ってくる。
しかし、今日は二時間経っても戻ってこなかった。
さすがに心配になってくる。
今日は少々風はあるものの、日中は夏日ともなった晴天。
散歩には気持ち良い日。
ひょっとして百貨店まで足をのばしたのだろうか。
万一、どこかで行き倒れたとしても、こんな昼日中で街中、人に気づかれないことはあるまい。
しかし、先日も白昼の銀座で強盗事件があったばかりだし、このご時世、何があるかわからない。
と思うとたいへん心配になってきた。
今日の徹子の部屋に麻丘めぐみが出ていて、同居していたお母さんが85くらいから認知症になったと話していたのを観たばかりだったし。
電話しても繋がらない。
よくあることなんだけど。
日が落ちても戻ってこなければ、交番に行かなくては、交番てどこだっけなんて考えていたら。
6時すぎ、玄関のチャイムが鳴った。
無事ご帰還。
道に迷ったという。
今住んでいるマンションは、確かに若干わかりにくい場所にある。
私なんかも、タクシーで帰るとき、なかなかうまく説明できない。
あまり外出しないから、迷ってもおかしくはない。
最近は若い人がとっても優しいの。
男の子も女の子も。
母は言う。
道行く人に尋ねたようだ。
3時間もウロウロ。
杖もつかずに歩ける元気さはあるのは有難いが、そろそろ一人で出歩くのはやめたほうが良いのだろうか。
今日は朝から私は目眩がして、横になっていたかったけど、なんとか洗濯や掃除をした。
たまる一方の家事を思えば、多少無理したほうが気が楽なのだ。
しかし、こんな心配事に自分の不調が吹き飛んでしまった。
夫が作ってくれた優しい味の夕食に救われた。
自分達もだんだんと老いてくる。
考えたら不安しかないけれど。
受け入れるしかないんだよね。
受け入れなければ、良い対処法も見出だせないだろうし。
5月の爽やかな空に光る夕陽を見つめながら、黄昏時の美しさがせつなくなった。