こちらの本を読了いたしました。

著者は前田正子さんです。(甲南大学マネジメント創造学部教授)
前回のブックレビューも就職氷河期世代について書かせていただきましたが、今回も内容はリンクしています。


現在の40代からの55才くらいに位置する氷河期世代((1990年代半ばから2000年代初頭) は、 新卒採用の時期にバブル崩壊を受け、正社員の採用を抑制された世代です。非正規雇用のために安定した収入がなく、結婚や出産も難しかった世代。2000年から04年にかけては大学生の4人に1人が無業もしくはアルバイトで卒業していきました。

(下図本書 P104引用。就職氷河期時代の2012年では女性の43.8%、男性の26%が新卒時の就職先が非正規であった)

下図は荒川和久氏作成の生涯無子率と生涯未婚率の推移ですが、確かに1990年以降未婚と無子のグラフが爆上がりしています。
図参照記事

男女ともに年収の高い人ほど結婚する確率は高くなります。対して非正規社員では、恋愛や結婚をしたくてもできないという現状があります。(下図本書p43より、就労形態別に見た男性の有配偶者率。正社員の結婚率は高いが正社員以外が低くなっている)

若者の非正規化は少子化の大きな原因となり、もはや結婚や出産は安定して恵まれた収入があるものだけが手に入れられる「ぜいたく品」となりつつあります。

そして現在は驚くべきことに、30代前半女性の3割強が結婚をしていないのだそうです。実際私のお店の20代後半の女性生社員達、婚活をすれば間違いなく申し込みが殺到するであろうスペック(若さ・性格・美貌・コミュ力)であるにも関わらず、趣味や仕事や推しに忙しく恋愛どころではありません。

私が20代の頃は結婚相手を探すべく恋愛に一生懸命でしたが、この20年でこうも感覚が変わってしまったことに驚きを隠せません。20代で絶対に相手を見つけて結婚してみせるという焦りは、今の若者にはあまり感じません。

ちなみに2020年における20代女性の非正規社員率は、驚きの31.2%となっていました。約3人に1人の20代女性が雇用の不安定な非正規であり、子供を産むにも充実した 子育て支援制度(育児休業給付金や育児休業制度、育児短縮勤務制度など)を受けられません。

現在の結婚適齢期の男性の9割は、結婚した後も正社員で働き続けてくれる女性を希望しているというデータがあります。男性の収入が昔ほど上昇しない昨今においては、 男性側も不安定な雇用の女性を配偶者としては選ばない傾向にあるようです。

低収入な非正規雇用の若者の増加は、非婚や少子化を招くだけでなく、将来満足な年金もなく、貧困状態となる高齢者が増えることを示しています。総合研究開発機構の推計によると、就職氷河期時代以降ずっと非正規雇用だった若者達が65歳になり、その後の生涯にわたって生活保護を受給し続ける場合、その費用は19.3兆円になるそうです。

この本を読んで感じたことは、バブル崩壊の雇用調整による就職氷河期がもたらした若者の非正規雇用の増大は、結婚をしたくても出来ない、子供を産みたくても産めない若者をつくり、その老後に至るまで収入を不安定にさせ、莫大な国力の低下をもたらしたということです。

この本の著者である前田さんは「失われた20年というのは、結局若者を犠牲にして企業が生き延びた時代でした。 その犠牲によって何が実現したか といえば、日本人が必死で働いて貧乏になった20年、少子化が進んで日本の将来が危うくなった20年であった」と述べています。

企業が若者をないがしろにしたツケが、少子化や高齢者の貧困となり、まさに今から我々を襲ってくるのかもしれません。