芥川賞を受賞した村田沙耶香氏の「コンビニ人間」を読了いたしました。

 

この本の主人公の女性(古倉恵子)は36歳独身(彼氏なし)で、18年間同じコンビニで週5のアルバイトをしています。彼女はアスペルガー症候群として描かれており、"普通"とは違う独特の感性を持っています。


幼稚園の頃に公園で小鳥が死んでいたら、「 お父さん焼き鳥好きだから、今日これを焼いて食べよう」と言い、驚く母親たちに「もっととってきた方がいい? せっかく死んでいるのに埋めるのはもったいないし、公園には小鳥がいっぱいいるからたくさんとって帰れば良い」と平然と言ってのけます。


教室で若い女の先生がヒステリーを起こして子供達を怒っていた時には、先生に黙ってもらおうと思って先生のスカートとパンツを勢いよく下ろしたりもします。


そんな"普通の感覚"がわからなかった彼女ですが、「やるべきことが細部に至るまできっちりとマニュアル化された」コンビニ店員のアルバイトは、彼女にはぴったりとハマったのです。


同じ制服を身につければ全員が「コンビニ店員」となり、 そこには性別も年齢も国籍も関係ありません。勿論、独身や子持ちかどうかといった属性も関係なく、ただひたすらコンビニの業務をこなしていく存在としてあり続けることができます。


人手不足のコンビニでは、「可もなく不可もなくとにかく店員として店に存在する」ことが大事であり、遅刻をしたりサボったり、違反をする人間は「コンビニ店員」からは削除されていきます。それはまるで「まっとうではない人間」が正常な世界から静かに削除されるのと同様に。


P84引用

正常な世界はとっても強引だから、異物は静かに削除される。まっとうでない人間は処理されていく。そうか、だから治らなくてはならないんだ。治らないと正常な人たちに削除されるんだ。家族がどうしてあんなに私を治そうとしてくれているのか、やっとわかったような気がした。


ある日彼女の勤めるコンビニを数日でクビになった男性、白羽さん(独身無職)が彼女に呟きます。

「この世は現代社会の川をかぶった縄文時代なんですよ。大きな獲物を取ってくる、力の強い男に女が群がり、村一番の美女が嫁いでいく。狩りに参加しなかったり 参加しても力が弱くて役立たないような男は見下される構図は全く変わってないんだ。中略


外に出たら僕の人生はまた強姦される。男なら働け、結婚しろ、結婚をしたならもっと稼げ、子供を作れ。村の奴隷だ。一生働くように世界から命令されている。僕の精巣すら村のものなんだ。 セックスの経験がないだけで、精子の無駄遣いをしているように扱われる」


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1920年から1980年頃までは、日本の婚姻率は95%以上でした。参照


その頃の時代においては、ほぼ全ての人間が結婚しましたが、今や男性の生涯未婚率は 30% 近くとなっています。 そして20代男性の40%はデートの経験すらないと言います。

男なら結婚をし、子供を作り、妻子を養うべく一生働くのが当然。女なら大きな獲物を獲得できるような力の強い男と結婚が出来るように努めるべきである。

そのような世間の圧力に馴染めなかった独身の彼女(古倉)は、「コンビニ店員」として目覚め、そこに自分の存在価値を再確認していくのです。


私も「呉服屋さんの店員さん」としてお客様やメンバーといるのは気が楽ですね。ある一定の役割を与えられた環境の中で過ごす方が、気楽にのびのび出来ます。「自分は何者であるのか」などと毎日追求していたら、訳がわからなくなります。

そのような意味において私も「コンビニ人間」です。

世間の常識は少しずつ変わってきました。結婚をせずいつまでもアルバイトであっても、昔ほどは後ろ指をさされなくなってきました。しかしながら「子供を生んだ女性」や「 大きな獲物を獲得できる男性」が良しとされる、縄文時代からの流れはいまだに残っています。我々の種の保存のためには必要不可欠な要素として。

「みんな一定の型のなかで、それぞれの役割を演じている」

そのような中で役割を演じきれずに、弾き出された人間たちの本音が描かれた、 芥川賞獲得の一冊でありました。
(本日の我が家のガーデニング花)