こちらの本を読了いたしました。
題名「発達障害が少年犯罪の原因ではなかった」


 著者は1000人以上の支援に携わった広島の発達障害専門家である竹内吉和さんです。


現在ニュースを騒がせている事件に「すすきのホテル殺人事件」がありますが、このような普通の人では考えられない猟奇的な事件には「何らかの精神・発達障がい」の関与が取り沙汰されます。

本の題名では「発達障害が少年犯罪の原因ではなかった」となっていたものの、本書P250の24個の少年犯罪事件の検証結果を参照するに、犯罪少年の診断結果の全てに何らかの発達障害が見られることに驚愕いたしました。びっくり




図表を見る限りは、発達障害と少年犯罪にはかなりの関係性があるようにみえます。ネガティブ


本書p3引用

講演会場では何人もの発達障害のある子供を持つ親御さんが次のような相談を最近私に持ちかけてくるようになりました。彼らはみな思い詰めた表情で「うちの子供は将来犯罪を犯すようなことにならないでしょうか?」と尋ねてくるのです。


近年の少年犯罪の世界では大きな変化が起こっていて、 従来は少年犯罪を犯す子供といえば、幼い頃から素行に問題があり、明らかに粗暴な性格の子が飛行行為をエスカレートさせた挙句に、ついに残虐な事件を引き起こすといったものがほとんどでしたが、最近では普段大人しかった「普通の子」が突然変異のように犯罪を起こすことがあり、彼らは皆「相手は誰でも良かった」「人を殺してみたかった」というそうです。そんな彼らに下される診断は、広汎性発達障害、アスペルガー症候群です。


著者はこの本を通じて「子供が将来凶悪犯罪を起こすのではないか」との不安に怯える親御さんに「それは事実ではない」とお伝えしたいそうですが、やはりこのデータは恐ろしいですね。

著者は今回ASD(自閉症スペクトラム障害)のある少年に限定して研究を行い、少年の内部に存在するASDとしての認知や、行動などの生まれつきの素養がどの程度まで非行に影響している中を分析したそうです。

P20 本書引用

そして出てきたのは「発達障害は少年犯罪に直結するものではない」という結論でした。発達障害という生まれつきの脳の機能障害が理由ではなく、様々な生得的性質に少年が受けてきた学校教育や親の養育態度、家庭の経済状況などの環境要因が作用して、彼らは犯罪に走るようになったのです。見方を変えれば、学校教育の改善や親の養育態度の修正、家庭への経済支援なども含めた社会政策により少年犯罪は防止できることを示唆しているとも言えます。


著者は上記の24個の少年犯罪のなかで、普通の子であった彼らが何をきっかけに突然変異を起こし、反社会的な行動に出るまでにさせてしまったのかを分析しました。


(本書p273より引用)


著者が事件を検証した結果言えるのは、いじめや親への不信の要素が大きく関係していて、これらのきっかけを通して自分自身を失ってしまった抗議の気持ちが爆発していくのだとしています。(そこにASDの特性であるこだわりの部分が絡みつく)

私はこの本を読んで、少年凶悪犯罪と発達障がいの関係性は「地頭と成績」または「遺伝要因と結果」のようなものだなあと思いました。

持って生まれた本人の性質の強弱(この場合は攻撃性や凶暴性、反抗的な性格、こだわり、感情のコントロール下手、神経過敏性、反社会的行動、虚偽性など)が、環境によりその特性が抑えられるのか、それとも爆発するのかが別れていくということです。

そして猟奇的な事件は発達障害をもつ少年のごく一部が起こすのだとしても、具体的には彼らに対してどのような事前の対策があれば良かったのか。環境が彼らの行動に強い影響を与えてしまうのだとしたら、我々はどのような環境を与えられればよかったのか。

「地頭と成績は関係ない」「遺伝と結果は関係ない」などという安易な希望的フレーズと同じように、「発達障害が少年犯罪の原因ではなかった」という題名に希望を持って購入したわけですが、いやいや、かなり関係ってあるんですねと感じてしまった一冊となりました。滝汗