今回読了した2冊目について綴ります。


こちらの本は日本経済新聞社からの編著です。東京大学でも教鞭をとっている 米Microsoft 副社長も務めた西和彦氏には長年の疑問があったそうです。


「 東大工学部は世界史や漢文などが苦手だと入れない。でもそれは全てのエンジニアに本当に必要な資質なのだろうか」



難関の国立大学の理工系学部に入ろうとすれば、文系理系ともにオールマイティに高得点を取る必要があり、理系に突出した才能を持つ若者には国立最高学部で学ぶことは出来ません。

また日本の理工系女子の比率は、OECD加盟国では最低値なのだそうです。
(本書より引用)

政府の総合科学技術資料によると、OECDの学習到達度調査で高い理数系の能力を示した高校1年生の割合は、男女ともに4割弱で大きな差はないそうです。しかし実際の進路選択で理系を選択するのは、男子27%に対し女子16%となるそうです。


確かに私の大学でも、(私が大学生当時) 工学部女子はほとんどいませんでした。これは女子生徒・親・高校教員も含めて、工学部を卒業した後の女性の就職先にはどのような仕事があるのかという具体的なイメージが、ほとんどなかったことが原因かもしれません。

このような就職先イメージへの偏りは難関と呼ばれる進学校においても顕著であり、いまだに” 医学部信仰”の壁は厚いそうです。

灘高校長「多くの生徒が医学部を目指す。なぜだろう?社会の発展やテクノロジーの進歩には工学も理学も重要なのに」

理系の最優秀な人材が医学部に大量に流れる日本において、lTデジタル社会における国際競争力は保てるのか? 

灘高校長「高校生からしたら、安定していて世間から尊敬され、報酬が高い職業が医師以外に見えてこない」

女性も優秀な理系男子も、理学系の研究者や工学部出身のエンジニアがどのような仕事をしているのかの具体的イメージがほとんどないために、日本は多大なる機会損失をしているのかもしれません。

また、 長時間労働や保護者対応の難しさから教職の魅力が低下しており、「教員の質の低下」の問題も指摘されていました。

21年度実施の小学校の教員試験受験者は約4万人と10年前よりも3割も減少し、採用倍率は4.4倍から過去最低の2.5倍にまで落ち込んだそうです。→23年度はさらに落ち込み1.5倍へ。


「採用試験の倍率が3倍を下回ると質が保てなくなる」と言われるそうですが、教員採用試験の倍率は低下するばかりです。

( 本書より引用)

このような現状において「不登校問題」も、学校の教職員がうまく対応できていない現実があります。

本書の中で遠藤教育長は、不登校時の学校以外の受け皿を教育行政が率先して整える必要性を訴えています。

現状は学校に無理して来なくて良いと言いながら、学びの継続は自己責任になっている。登校するかしないかではなく、いろいろな場所で学べるようにすることが重要だ。



あまりに忙しい小学校教員は、不登校児童にまで自分の時間を割くことはできません。息子が小学校の時に不登校になってしまった時には、こちらからアプローチをしない限りは小学校からのアプローチはありませんでした。

「 本人の気力がわくまでは、学校には無理に来なくてもいいよ」という言葉のもと、登校できなかった時間に対してのフォローは「家庭での自己責任」と なっている現実があります。

不登校児童を教師1人1人の対応力に任せてしまうのではなく、「学校に行けなくても(様々な角度から)学びを継続することができる、学校以外の居場所を作ることができる」 制度を行政として確立する必要性を感じます。

本書は「教育」における様々な歪みを指摘する一冊でありました。